映画『映像研には手を出すな!』感想 アイドル映画としては素晴らしい出来だが、1本の映画としては色々と気になる点が多い作品だった【ネタバレあり】

映画レビュー
(C)「映像研」実写映画化作戦会議

 

今回取り上げるのは、映画『映像研には手を出すな!』

原作は「月刊!スピリッツ」で連載中の大童澄瞳による同名漫画で、今年の1月~3月期には今や日本を代表するアニメ作家・湯浅政明監督がアニメ版(NHK総合)を手掛けたことでも知られています。

そして、本作の監督を務めたのは、『あさひなぐ』『 賭ケグルイ』『ぐらんぶる』など若者をターゲットにした映画を得意とする英勉(はなぶさ つとむ)。主演を務めるのは、日本を代表するアイドルグループ・乃木坂46の齋藤飛鳥、山下美月、梅澤美波となっています。

また、この『映像研には~』は、映画公開に先立って今年の4月からTBS系列で実写ドラマを放送していたのですが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて劇場版の公開が5月15日から9月25日にずれ込んだことによりプロモーションの面でやや出鼻を挫かれた感もあります。

キャストのファンは確実に劇場まで足を運ぶと思いますが、今は『TENET テネット』を筆頭に大作映画も公開されていますし、それ以上の集客となると作品の出来(すなわち口コミ)が大きな鍵となるはず。

 

果たして英努監督は今をときめく日本のトップアイドルを活かして傑作を生むことができたのか……。

それでは、いってみましょー♪

 

映画『映像研には手を出すな!』の公式HPはこちら

 

あらすじ

迷彩帽に迷彩リュックの少女・浅草みどり(齋藤飛鳥)は、アニメが好きで、人並み外れた想像力があるのだが、見知らぬ人に話しかけられると卒倒してしまうほどの極度の人見知り。
浅草の中学からの同級生・金森さやか(梅澤美波)は長身で美脚、金儲けに異常な執着を見せるタイプだ。2人が入学した芝浜高校は、413の部活動と72の研究会およびそれに類する学生組織がある、一言でいえばカオスな高校。この部活動および学生組織を束ねているのが大・生徒会。道頓堀透(小西桜子)、ソワンデ(グレイス・エマ)、阿島(福本莉子)、王(松﨑亮)が幹部として運営を司っている。
そんな芝浜高校で、浅草と金森はカリスマ読者モデルの水崎ツバメ(山下美月)と出会う。ツバメもまた、芝浜高校に入学してきた新入生で、実はアニメ好きでアニメーター志望だった。
運命的な出会いを果たした3人はアニメ制作に邁進することを決意する。
こうして、電撃3人娘の「最強の世界」を目指す冒険が始まった!!!(東宝HPより引用)

                                   

 

スタッフ

 

監督英勉
脚本英勉
高野水登
原作大童澄瞳
『映像研には手を出すな!』
製作総指揮高橋亜希人
丸山博雄
製作上野裕平(企画・プロデュース)
金森孝宏
梶原富治
尹楊会
田村豊
音楽佐藤望
撮影川島周
古長真也
編集相良直一郎
制作会社ノース・リバー
ROBOT
製作会社「映像研」実写映画化作戦会議
配給東宝映像事業部

 

キャスト

 

「映像研」実写映画化作戦会議
浅草みどり齋藤飛鳥
金森さやか梅澤美波
水崎ツバメ山下美月
道頓堀透 小西桜子
さかき・ソワンデ  グレイス・エマ  
阿島九福本莉子
王俊也松﨑亮
音響部 百目鬼 桜田ひより
ロボット研究部 小野板垣瑞生
ロボット研究部 小林赤楚衛二
ロボ研 小鳥遊(たかなし)染野有来
ロボ研 小豆畑(あずはた)亀田侑樹
気象研究部 晴子浜辺美波
気象研 雨男(あめお)河津未来
ツバメママ 水崎菜穂美松本若菜
ツバメパパ 水崎葉平山中聡
藤本先生髙嶋政宏
黒田 鈴之助
麻笠出合正幸

 

感想(ネタバレあり)

 

総評

 
アイドル映画としては良作。細かい所を除けば面白かった。
主演3人(齋藤飛鳥、山下美月、梅澤美波)の魅力は十分伝わってきたし、比較的予算がある分、映像のクオリティも邦画の大作映画に引けを取らなかったと思う。

でも、1本の映画として考えた時に、冒頭の中途半端なドラマ版のダイジェストは蛇足に思えたし、不要なキャラやシーンが多かった。確かに監督の矜持のようなものは感じたけど、もっとファンムービーに振り切ったほうが良かったのではないだろうか。
 

 

初めに自分のスタンスを言っておきます。
原作未読。
アニメ版は2話まで鑑賞済み。
ドラマ版はTVerで鑑賞済み。
乃木坂ファンって訳ではない。

こんな感じです。中途半端でごめんなさい。

ただ、僕には『映画は映画で成立してるべき』という考えがあるので、誰が好きか、何を予習してきたかは関係ありません。本作も「純粋な1本の映画作品」としてレビューしていきたいと思います。

 

ドラマ版をどう考えるか

 

前述した通り、本作は今年の5月15日に劇場公開されるはずが、新型コロナウイルスの影響で9月にまで公開延期となっていた作品です。

4月8日~5月13日には、TBS系列でドラマ版が放送されていたことからも(放送局によって放送期間は若干異なります)、作り手たちにTVドラマ版を観た流れで劇場にも足を運んで欲しいという考えがあったのは容易に想像が出来ます。

 

しかし、ここでネックとなるのがドラマ版と劇場版の関係です。

ドラマ版は1話30分で全6話。原作第1巻の内容を中心に、細部にオリジナル要素を追加して作られています。つまり、齋藤飛鳥&梅澤美波が山下美月と知り合い、映像研を立ち上げるところから描いているわけです。

 

じゃあ、映画版はどこからスタートするのか。

恐らく選択肢は大きく分けて2つあって『観客がドラマ版を観ていることを前提に続きから進める』『ドラマ版を観てない人のために映像研の誕生から描く』のどちらかだったと思います。ですが、本作はその中間で、黒澤明監督『羅生門』のパロディをしながら(乃木坂ファンは気付くのか……?)「私、見ました……」みたいな客観的な台詞で映像研誕生のダイジェストを入れるという愚策を選択してきました。

 

しかも、そのダイジェストが非常に中途半端で要点を全く抑えてないし、ドラマ版を観てた人が喜ぶような作りにもなってない

 

これはいったい何のためのダイジェストなんでしょう。この時点で単体映画として描く気はないと宣言しちゃっているのと同じだし、だったら上記の『続きから進める』を選択して、「一見さんお断り」の完全なるファンムービーに徹してくれた方がまだ気持ちがいいと思いました。

冒頭の中途半端なダイジェストは1本の映画として観た時に間違いなくマイナス要因だと思います。

 

そもそも全てが表面的

 

次にキャラクターの掘り下げ不足について。

 

本作はモブキャラを含めとにかく登場人物が多いです。

これは、「413の部活動と72の研究会およびそれに類する学生組織が存在する学校」を描いていることが理由なのですが、本作はその部活動等の紹介に時間を使いすぎてるがあまり主要登場人物のキャラクターを全く掘り下げられていないという問題があります。

 

例えば、山下美月演じる水崎ツバメは俳優である両親からアニメ制作を反対されている(というか、俳優になるよう言われてる)設定にも関わらず、冒頭のダイジェストでは、いきなり水崎家の使用人たちに追い掛けられてるし、親に隠してアニメ制作をしている行動/台詞がちょっとしか出てこないので、どの程度切実な問題なのか分かりません。

僕はドラマ版を観ていたから理解出来ましたが、ドラマ版を観ていない人たちが本作のクライマックスを観ても、きっと作り手たちが意図するカタルシス(浅草の勇気の意味など)は得られませんよね?

て言うか、2時間引っ張ってきて『親にバレる・バレない』が最後に来るのも盛り上がりに欠けたし、散々拘って作ってきたアニメをほとんど見せてくれないのは如何なもんかと思いました。

 

他にも、アニメの制作過程がとにかく雑という問題もあります。
浅草&水崎の中でアイディアが増幅していく描写はVFXを駆使して素晴らしかったですけど、「これぐらいの長さとクオリティのアニメーション作品を女子高生が作ったらどれくらいの日数が必要」みたいなことは一切無視してた気がするし、文化祭前日に『あの場所』に紛れて作業をする必然性も感じませんでした。

漫画やアニメでは許容できることも、実写となると話は別です。
もう少し虚構と現実のバランスを考えて欲しいと思いました。

 

それともう1点。
気象研究部の浜辺美波について。

彼女は特別ゲスト的な枠で映画『ドラえもん のび太とふしぎ風使い』のオマージュみたいなシーンに登場するのですが、特にストーリーとも絡んでこないし、わざわざ出てくる必要なかったんじゃないかと思いました(台風で文化祭が延期するならまだしも飛行機が飛ばないぐらいじゃねぇ)。

勘違いしないでほしいのは、僕は浜辺美波のことは嫌いじゃないですし、『ふりふら』とは一味違う福本莉子とのやり取りも微笑ましく観てました(そう言えば、赤楚衛二も重要な役で出てましたね)。「浜辺美波の無駄遣い最高!」と好意的な意見が多いのも分かってます。

でも、彼女のシーンを削れば、主要3人の物語をもっと描けたはずだし、その方が確実に映画としてのクオリティは上がったはず。単純に『賭ケグルイ』繋がりなのか、福本莉子とセットで東宝が捻じ込んだのかは分かりませんが、脚本をもう少し練るか、作品のクオリティファーストでキャスティングをして欲しいと思いました。

 

 

まとめ

 

いかがだったでしょうか。

色々言ってきましたが、良かった点ももちろんあります。

まず、齋藤飛鳥、山下美月、梅澤美波の3人の演技は良かったと思います。専門用語や長台詞もあり大変だったとは思いますが、アイドル映画にありがちな「棒読み」だったり「台詞と感情の不一致」もなく、違和感なく観られました。

この辺りはさすが日本のトップアイドルですね。

 

また、英勉監督の演出も、役者の演技を漫画口調に寄せてしまったのは好みではありませんでしたが(ここが邦画のダメなところなんですよねぇ)、浅草・水崎のアイディアが増幅して行く過程や、白い線で空中に絵が描かれていくVFXの演出は観ていてとても楽しかったです。あと、「はじめてのおつかい」のパロディも(笑)

やっぱり英勉監督に若い人をターゲットにしたコメディを撮らせたら上手いと思ったし、これからますます注目の監督だと思いました。

 

結論を言うと、『アイドル映画としてはかなりクオリティが高く、細かい所を抜きにすれば十分楽しめる。だが、1本の映画としては不満が残った』です。

ともあれ、乃木坂ファン(齋藤飛鳥、山下美月、梅澤美波ファン)は大満足の2時間になること間違いなしなので、ご興味のある方は是非劇場でご覧ください。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

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