『Waves/ウェイブス』感想 僕がウェイブスのウェイブに乗り切れなかった幾つかの理由【ネタバレあり】

映画レビュー
引用:a24films.com

今回取り上げるのは、若干31歳の新鋭トレイ・エドワード・シュルツ監督×ケルヴィン・ハリソン・Jr主演による『Waves/ウェイブス』

本来であれば今年の4月10日が公開日の予定でしたが、ご存知の通り新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて3カ月の延期となり、7月10日にようやく全国公開となった作品です。

 

本作の注目ポイントは2つあって、1つめは設立10年足らずの間に超良質な作品を量産してきた気鋭のスタジオ『A24』による配給ということ。

2つめはケンドリック・ラマーカニエ・ウエストレディオヘッドなど豪華アーティストによる31の名曲がひっきりなしにかかる“プレイリスト・ムービー”であることが挙げられます。

 

この作品はアメリカでは2019年のうちに公開されているのですが、既に20を超える海外の映画賞で受賞・ノミネートを果たしていますし、日本でも各批評家のレビューやTwitterの感想などを見ると軒並み高評価ばかり。

みんな大大大絶賛しています。

 

でも、正直に言います。
僕、この作品ダメでした。

ということで、少数派の意見だとは理解しつつ、今回は僕が『WAVES』のWAVEに乗り切れなかった理由を解説していきたいと思います。

それではいってみましょー♪

 

映画『WAVES/ウェイブス』予告編|近日公開

映画Waves/ウェイブス』の公式HPはこちら

 

あらすじ

高校生タイラーは、成績優秀なレスリング部のエリート選手、美しい恋人アレクシスもいる。厳格な父親ロナルドとの間に距離を感じながらも、恵まれた家庭に育ち、何不自由のない生活を送っていた。そんなある日、不運にも肩の負傷が発覚し、医師から選手生命の危機を告げられる。そして追い打ちをかけるかのように、恋人の妊娠が判明。

徐々に狂い始めた人生の歯車に翻弄され、自分を見失っていく。そしてある夜、タイラーと家族の運命を変える決定的な悲劇が起こる。

一年後、心を閉ざして過ごす妹エミリーの前に、すべての事情を知りつつ好意を寄せるルークが現れる。ルークの不器用な優しさに触れ、次第に心を開くエミリー。やがて二人は恋に落ちるが、ルークも同じように心に大きな傷を抱えていた。そして二人はお互いの未来のためにある行動に出る・・・。

                                『Waves/ウェイブス』公式HPより引用

 

スタッフ

 

監督・脚本トレイ・エドワード・シュルツ
製作ケヴィン・チューレン ジェームズ・ウィルソン
製作総指揮ジェイコブ・ジャフケ
音楽トレント・レズナー  アッティカス・ロス
撮影ドリュー・ダニエルズ
編集トレイ・エドワード・シュルツ  アイザック・ヘギー
製作会社ガイ・グランド・プロダクションズ  JWフィルムズ
配給A24(米)  ファントム・フィルム(日)

 

キャスト

 

a24films.com
タイラー・ウィリアムズケルヴィン・ハリソン・Jr
エミリー・ウィリアムズテイラー・ラッセル
ルークルーカス・ヘッジズ
アレクシス・ロペスアレクサ・デミー
キャサリン・ウィリアムズレネイ・エリース・ゴールズベリイ
ロナルド・ウィリアムズスターリング・K・ブラウン
ボビー・ロペスクリフトン・コリンズ・Jr

 

感想(ネタバレあり)

注意!
ここから先はネタバレを含みますので、まだ観ていない方はご注意ください。

また、本作に対して辛辣な意見・感想があるので、「この作品が好き」「オールタイムベスト級」という方は不快な気持ちになる可能性があります。
お読みいただける場合は「こんな意見もあるのか」程度に寛大な気持ちで受け流していただけると幸いです。

 

【総評】
確かに音楽や色彩、時には画面比率まで変えてとことん『魅せ方』を追求していたけど、物語自体はそこまで新しいことをしておらず、むしろ斬新な映像表現がテーマの邪魔をしているように見えた。

自分の洋楽リテラシーの低さが一因であることは否定しないが、正直そこまで褒めるような作品には思えない。なんだったら、どこかで観客を小馬鹿にしているようにも思えて怒りさえ覚えている。

 

まず、冒頭でも少し触れましたが、本作の特徴について書いていきます。

本作『Waves/ウェイブス』の注目ポイントとしてまず挙げられるのはA24作品であることでしょう。

今更説明するまでもありませんが、A24とは設立わずか10年足らずでアカデミー賞を始めとする賞レースに数々の作品を送り込んできた気鋭のスタジオで、いま最も映画ファンからの注目を集めている製作・配給会社と言っても過言ではありません。

A24の主な代表作は、
『ルーム』
『ムーンライト』
『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』
『レディ・バード』
『ヘレディタリー/継承』

『荒野にて』
『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』
『ミッドサマー』

などなど挙げればキリがないのですが、とにかくここ数年、世界中の映画ファンのハートを射抜きまくってきた米国インディペンデント界を代表する超キレ者集団が、満を持して配給してきたのが本作『Waves/ウェイブス』なわけです。

 

次に作品自体の特徴です。

本作は『プレイリスト・ムービー』と呼ばれていて、今の音楽シーンをリードする豪華アーティストたちが手掛ける31もの曲がひっきりなしに流れてきます。

 

しかも、シュルツ監督は、事前に本編に使用する楽曲のプレイリストを作成し、そこから物語の着想を得て脚本を書いたというから驚きです。

 

また、登場人物のおかれている状況や心情に合わせてスクリーンの比率が変化することも特徴なので、これからこの作品を観る方は、出来るだけ大きいスクリーンかつ音響設備の整った劇場で鑑賞することをオススメします。

ということで、今作では音楽が非常に重要な役割を担っているので、まずはプレイリストの中身を紹介していきます。

 

『Waves/ウェイブス』のプレイリスト

 

下記が本作の物語を彩るプレイリストです。
アカデミー賞受賞コンビ、トレンド・レズナーアッティカス・ロスのオリジナルスコアは省いているのでご了承ください。

 

[FloriDada] [Bluish] [Loch Raven (Live)]/アニマル・コレクティヴ
[Be Above It] [Be Above It (Live)]
[Be Above It (Erol Alkan Rework)]/テーム・インパラ
[Mitsubishi Sony」[Rushes] [Sideways] [Florida]
[Rushes (Bass Guitar Layer)] [Seigfried]/フランク・オーシャン
[What a Difference a Day Makes]/ダイナ・ワシントン
[La Linda Luna]/ケルヴィン・ハリソン・Jr
[Lvl]/エイサップ・ロッキー
[Backseat Freestyle]/ケンドリック・ラマー
[America]/ザ・シューズ
[Focus]/H.E.R
[IFHY (feat.Pharrell)]/タイラー・ザ・クリエーター
[Surf Solar]/ファック・ボタンズ
[Love is a Losing Game]/エイミー・ワインハウス
[I Am a God]/カニエ・ウエスト
[U-Rite] [U-Rite (Louis Futon Remix)]/THEY.
[Ghost!]/キッド・カディ
[The Stars In His Head (Dark Lights Remix) ]/コリン・ステットソン
[Moonlight Serenade]/グレン・ミラー
[How Great (feat. Jay Electronica and My Cousin Nicole)]

/チャンス・ザ・ラッパー
[Pretty Little Birds (feat. Isaiah Rashad)]/SZA
[True Love Waits]/レディオヘッド
[Sound & Color]/アラバマ・シェイクス

 

いかがでしょう。

皆さんはどれくらいの曲/アーティストを知っていましたか?

僕自身、洋楽自体はそこそこ聴くのですが、好きなジャンルが違うため、この中で知っているアーティストは恥ずかしながら半分もいません。
聴いたことのある曲は2~3曲という状態でした。

 

当然のことながら、曲に思い入れがあった方がより楽しめるのは間違いないので、この映画を100%楽しめなかったのは自分の洋楽リテラシーの低さに一因があります。

 

そこは素直に勉強不足です。ごめんなさい。

 

ただ、歌詞が字幕で出る点、曲が登場人物の心情とリンクしている点を考慮すれば、曲を知らない人が見ちゃいけない映画では全然ないと思うし、「知らねー曲ばっか使いやがってこのヤロー」と批判するつもりも毛頭ありませんのでご安心ください。

 

問題なのは、そもそも登場人物に感情移入できないから曲が流れてきても効果を感じ取れなかった点なわけで、本末転倒な話ではありますが、僕はこの作品のテーマで音楽を多用するのはちょっと違ったんじゃないかと思っています。

 

少なくともテイラーには感情移入できない問題

 

じゃあ、何故、登場人物に感情移入が出来なかったのか。
その理由を説明します。

 

観た方は分かると思うのですが、本作は明確に前半と後半でパートが分かれています。

前半は兄・テイラーが主人公。後半は妹・エミリーが主人公です。

 

もう少し踏み込んで書くと、前半のラストでテイラーが彼女のアレクシスを殺してしまい、後半はバラバラになりつつあった加害者家族の再生をエミリーの視点で描いていきます。

 

つまり、この作品のど真ん中で『殺人事件』が起こるわけですが、僕は、映画の中における殺人に関しては、結構シビアな目で見ちゃうんです。

脚本至上主義なので。

勿論、ドンパチ&ヒャッハーなアクション映画は何も気にしないで楽しめるんですが、本作だったり、それこそ1週間前に観た長澤まさみ主演の『MOTHER マザー』のような人間を描く作品で人を殺めるシーンが出てくると、どうしても人物の心理描写や動機が気になってしまいます。

 

 

つまりですね、本作の前半の主人公であるタイラーは、日頃からキレたら高圧的になるわ、汚い言葉を吐くわ、ドラッグをやるわ、酒を飲んだ状態で運転をするわ、ストーカー気質でもあるわで、「赤ちゃんを殺すことなんて出来ない。一人でも産むわ」と言った彼女を勢いにまかせて殴り殺してしまった正真正銘のクズ野郎なわけですよ。

もみ合ってるうちに階段から突き落としてしまったとかじゃなく、鍛え抜かれた筋骨隆々の身体でぶん殴って殺してしまうんです。

 

優秀なレスリング選手だったとか、怪我による挫折とか、父親からの抑制とかそういったことは一切理由にならず、どう考えても同情の余地なんて一ミリもない殺人犯。

 

僕からしたら(服役をして罪を償ってるならともかく)、彼女の遺体の傍で泣き喚いたり、留置所の中で彼女の写真を見ながら「後悔してるんです~ぅ」なんて顔をされても不快でしかないし、いくら後から「私が止めなかったから」「俺の育て方のせいだ」とか家族が言っても、被害者遺族からすれば「今更何を言っても遅せぇよ」状態で、死んだアレクシスは生き返りません。

 

でも、この作品はひたすら加害者家族だけが描かれ続け、被害者遺族がモブキャラ扱いになっているし、これ、異論・反論があるのは承知で言いますけど、本作ってとてつもなく悲惨な出来事を何処か「美しき悲劇」みたいな方向に持って行こうとしているような気がしてならないんですよね。

テーマと表現方法が合ってないと言えばいいのかな……?

 

インスタを意識してるのは分かるけどさぁ問題

 

で、これって実はインスタグラムの原理と似ていて、インスタって写真の角度とか加工とかでいかに美しく、カッコよく見せるか『映え』を競ってるじゃないですか。

たとえ、写真の中に写っているものが大したことないものだとしても、工夫と技術次第でどうにでも『盛れる』というか……。

本作も、ロケーションや色彩に拘ったり、ここぞという時にはスクリーン比率を正方形にしたりと、明らかにインスタを意識した作りになっているんですが、インスタで盛りに盛った「映え」写真と同様に、映画では普通によくある(でも、心理描写が足りない)話を盛大に持っているだけなんですよね。

 

そして、それを象徴しているのが日本版のポスターです。

 

引用:映画.com

 

まるでキラキラ&グルーヴィーな恋愛映画のように見せてますけど、前述した通り、のちに左のタイラーは右のアレクシスを殴り殺します

このビジュアルに「愛が、再び押し寄せる」なんて書いたら、離れ離れになったカップルが真実の愛に気付いて復縁する物語に思えちゃいますけど、全然違いますからね?

彼らは殺人事件の加害者と被害者です。

 

これって恐らくですけど、『恋人を殺してしまった青年とその家族の再生の物語』ってしちゃうとライト層のお客さんが来てくれないから、配給会社が少しでも『若い男女のラブストーリー』に見えるよう誤魔化した結果だと思うんですけど、この宣伝の仕方はマジでやめるべきだと思います。

こういうことを続けていると、この作品は集客出来るかもしれないけど、長い目で見たらお客さんが映画から離れていっちゃうから。

 

で、ここまで言うと、
それって作品そのものとは関係ないじゃん!
日本の配給会社の問題じゃん!
って思われるかもしれないので、海外版のポスターもちゃんと確認してみました。

 

引用:a24films.com

 

うん。凄く良いポスター。
こっちの方が映画の内容をストレートに伝えています。

 

でも、映画『Waves』の(僕が駄目だと感じた)本質って実は日本版のポスターの方がちゃんと表していると思っていて、要するに「如何にダメな部分を誤魔化して、大袈裟かつキャッチ―に魅せるか」なんですよ。

そのために取られた選択が音楽であり、色彩であり、カメラワークであり、美しいロケーションなんです。

……というか、派手さを前面に押し出すことを最優先にした結果、本質的な部分を疎かにせざるを得なかったと言ったが適切かな。

 

そういう意味では、映画のルック(見栄え)に比重を置く人たちが絶賛する気持ちも分かるし、そこを否定しようとは一ミリも思いません。

今までにない表現をしているのは確かなので、誰かにとっての『特別な一本』になっていることも理解出来ます。

 

でも、冷静に物語の筋だけ追っていくと、本作の登場人物って仮に斬新な映像表現や音楽がなかったら結構薄っぺらいことしかやってないし、いくら名曲が流れようとも微細な心情を表すには不十分だったりして、全てが上手く機能してるかと言われれば全然そんなことはないと思います。

 

結局のところ何が言いたいかというと、物語(脚本)に比重を置いて映画を観ている自分からすれば、斬新な映像表現なんてどうでもよく、キャラクター造形やストーリーが物足りなく感じてしまいました。

つまりはそういうことなんです。

 

まとめ

 

いかがだったでしょうか。

結構辛辣な意見を言ってしまいましたが、このブログを書くために2回劇場に足を運びましたし、パンフレットも購入しているので許してください(笑)

それに、僕は後半のエミリーパートは結構良いと思っていて、特にエミリーがお父さんと湖(?)で対峙するシーンとかはグッとくるものがありました。

エミリー役のテイラー・ラッセルは素晴らしい女優さんだと思いますしね。
めっちゃ可愛かったです。

ただ、優しい彼氏と癌のお父さんとのやり取りを見て何が解決したのかはイマイチ分からなかったし、加害者家族としてのエミリーの苦悩も台詞でばっかり説明するから勿体なかったなぁとも思います。

2部構成にするなら、例えば、タイラーはタイラーでクズ野郎として描き切って『家族=抜け出せない呪縛』みたいな方向に話を持って行くか、片方の主人公をアレクシスの兄弟・姉妹とかにして被害者遺族の再生・立ち直りを描いた方が物語に深みが出るような気がしました。

 

同じプレイリスト・ムービーなら僕は『ベイビー・ドライバー』をオススメしますね。

ということで、最後までお読みいただきありがとうございました。

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