映画『とんかつDJアゲ太郎』感想 とんかつは揚げられても客席はアゲられず! これは音楽やDJに対するリスペクトの無いB級グルメ映画だ!【ネタバレあり】

映画レビュー
映画「とんかつDJアゲ太郎」製作委員会

 

今回取り上げるのは二宮健監督・脚本の『とんかつDJアゲ太郎』

本作は、2014年9月から2017年3月まで集英社の『少年ジャンプ+』で連載されたイーピャオ(原案)と小山ゆうじろう(作画)による同名のギャグ漫画が原作で、老舗とんかつ屋の三代目・揚太郎がクラブカルチャーに目覚め、とんかつもフロアもアゲられる「とんかつDJ」を目指して奮闘するストーリーです。

主演は、今年、YouTubeのチャンネル「THE FIRST TAKE」で披露したDISH// の楽曲『猫』が6,000万再生を超えたり、映画『思い、思われ、ふり、ふられ』での演技も記憶に新しい北村匠海が務め、その他に山本舞香伊藤健太郎浅香航大伊勢谷友介などいま最も油の乗ってる……はずだった俳優たちが脇を固めています。

しかし、当初、本作は6月19日に公開されるはずだったのが、新型コロナウイルスの影響によって10月30日に延期。それだけならまだしも、9月には伊勢谷友介が大麻取締法違反の容疑で逮捕され、10月にはブラザー・トムに不倫報道、公開の前日には伊藤健太郎がひき逃げの疑いで逮捕されるという「不本意なカタチで注目を浴びることとなってしまった作品」でもあります。

それでも、度重なる公開延期(中止)の危機を乗り越え、なんとか上映にまで漕ぎつけられたので、応援の意味も込めて僕も初日に舞台挨拶付上映に行ってきました。

果たして、観客の心もトンカツのようにアゲられる作品になったのか……。

それではいってみましょー♪

 

 

 

映画『とんかつDJアゲ太郎』の公式HPはこちら

 

あらすじ

 

 
とんかつ屋3代目の跡取り息子アゲ太郎。
とんかつもフロアもアゲられる「とんかつDJ」を目指そうとする!
すべては一目惚れした苑子ちゃんの心を射止めるために――。
でも、豚肉にも、DJ機材にも触ったことがないアゲ太郎。
いい加減な性格のDJオイリーに弟子入りしたり、大人気DJ屋敷を勝手にライバル視しちゃったり、ノーテンキなアゲ太郎の道のりは、一に勢い、二に勘違い、三に運命の出会い!?と大ハプニングだらけ。

はたして「とんかつDJ」として頂点を目指せるのか――!?

ジューシーなとんかつを揚げる音とフロアを熱狂の渦に巻き込むビートが見事に融合!
これまで体感&音感したことのない、満腹絶倒コメディがここに爆誕!

                                映画『とんかつDJアゲ太郎』公式HPより

 

スタッフ

 

監督・脚本二宮健
原作『とんかつDJアゲ太郎』
原案:イーピャオ
作画:小山ゆうじろう
製作小原一隆 村瀬健 唯野友歩
音楽origami PRODUCTIONS
黒光雄輝 a.k.a. PINK PONG
撮影工藤哲也
編集穗垣順之助
制作会社AOI Pro.
製作会社映画「とんかつDJアゲ太郎」製作委員会
配給ワーナー・ブラザース映画

 

キャスト

 

勝又揚太郎北村匠海
服部苑子山本舞香
屋敷蔵人伊藤健太郎
室満夫加藤諒
白井錠助栗原類
平積タカシ前原滉
夏目球児浅香航大
勝又ころも池間夏海
勝又かつ代片岡礼子
勝又揚作 ブラザー・トム 
 尾入伊織(DJオイリー) 伊勢谷友介

 

感想(ネタバレあり)

 

総評

 
残念ながら全くアガらなかった。
確かに、北村匠海のフィジカル(ダンスやDJの所作)は素晴らしかったが、スポ根要素が強いのにDJへのリスペクトや特訓シーンがなく、アゲ太郎が精神論だけでDJ技術を習得しているように見えて説得力が全くない。また、前半は特にテンポが悪く、中盤から後半にかけては多少盛り返したものの、それは名だたるアーティストの楽曲や音楽(とんかつビート)が良いのであって脚本と演出は全然上手くないと感じた。

期待してたし、応援したい気持ちはあるんだけど、これは推せないな。
 

 

……という訳でさっそくレビューを始めたいと思うのですが、その前に1点だけ。

今回の記事はかなり酷評しますので、本作が「楽しかった」「まんまとアゲられたぜ」という方は不快な思いをされるかもしれません。あらかじめご注意ください。

 

 

まず、最初に言っておくと、僕はこの作品を凄く楽しみにしていました。

緊急事態宣言が解かれたあたりからブルーノ・マーズ『ラナウェイ・ベイビー』に乗せた予告篇が映画館でガンガン流れていて、それを何度も観ているうちに洗脳されてしまい、北村匠海のドヤ顔を見るだけで笑えてくる状態になっていたんです(恐らく劇場で20回以上予告を観ています)。

しかも、伊勢谷友介、ブラザー・トム、伊藤健太郎という主要キャスト3名が次々と不祥事を起こすたびに「負けるなアゲ太郎!」「頑張れアゲ太郎!」と応援する気持ちがどんどん芽生えていき、このブログの開設と同時に始めたTwitterでは、これまで呟いたどの映画よりも『とんかつDJアゲ太郎』関連のツイートが多かったぐらいです。

 

※ちなみに、僕は、「犯罪やモラル違反」みたいなものと「作品」は区別して考えるタイプなので(勿論、罪の程度にもよりますが……)、映画の良し悪しは純粋に作品の出来だけで判断しています。なので、本作を予定通り公開したワーナー・ブラザーズの判断は支持しています。

 

ただ、気がかりだったのは、僕が二宮健監督『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY』『チワワちゃん』を全く評価してないということ。監督独特の色使いとかテンポとか心情表現が大の苦手で、「どうだい? 俺ってセンスいいだろう?」みたいなドヤ顔がチラついてしまい、どうしても好きになれなかったんです。それでも、本作はこれまでの監督のフィルモグラフィーとは全然違う内容だし、個人的に青春映画の傑作だと思っている『桐島、部活やめるってよ』の脚本家・喜安浩平が脚本協力としてスタッフに名を連ねているので、「流石に今回ばかりは大丈夫だろう」という気持ちで、胸を躍らせながら初日の舞台挨拶付き上映に行ってきました。

 

が、ぶっちゃけつまらなかったです。
全然好みじゃありませんでした。

 

勿論、この映画が好きだと言う人を非難するつもりは1ミリもありませんが、内容や舞台挨拶付上映なのに空席が目立つ状況を見てしまうと口コミでは広がって行かないでしょうし、不祥事の影響もあって比較的早めに公開を終了してしまうのではないでしょうか。

 

 

前半はとてつもなくテンポが悪い!

 

その原因は明白で、本作は「この手の作品はこうすれば面白くなる」という定石を無視した作りになっている上に、ギャグが寒く、話のテンポがすこぶる悪いからです。

 

まず、簡単に内容をおさらいしておくと、本作『とんかつDJアゲ太郎』は、渋谷にある老舗とんかつ屋『しぶかつ』の3代目・勝又揚太郎が、気になっている女の子・苑子ちゃんのハートをゲットするために、フロアもとんかつもアゲられる「とんかつDJ」を目指すストーリーです。

アゲ太郎は、まだ皿洗いやキャベツの千切りしか任されていない半人前なので、最終的に自分の手でとんかつを揚げることと、DJとなってフロアをアゲることがゴールとなるわけですね。

 

序盤では、アゲ太郎が子供の頃からつるんでいる「三代目道玄坂ブラザーズ」と、うだつの上がらない毎日を過ごしている様子が描かれ、彼らが特にやりたいこともなくただ家業を継ぐことを宿命づけられただけの存在であることの説明がなされます。

その後、弁当の配達で偶然訪れたクラブでDJオイリーのプレイに魅せられたアゲ太郎は、「とんかつDJに、俺はなる!」とONE PIECEのルフィばりに宣言して行動に移していくのですが、アゲ太郎も道玄坂ブラザーズもこれまでクラブなど行ったことがなく、音楽やDJに関する知識は全くと言っていいほどありません。

そこで彼らは、ガラクタを寄せ集めただけのDJセットを組み、「むしろこれはDJをバカにしてるんじゃないか」と思うような真似事&ダンスをしながら4人でキャッキャする動画をYouTubeに投稿していきます(このシークエンスは原作にない映画オリジナルらしい!)。すると、何が面白いのかは分かりませんが、都合よく『とんかつのコスチュームを着て渋谷でパフォーマンスする動画』がバズり、なんと、アゲ太郎は渋谷のクラブ界隈でちょっとした有名人になってしまいます。

 

そして、ここから物語は一気に展開し、アゲ太郎が念願のクラブDJデビューを果たすわけですが、この前半から中盤にかけての流れが非常にテンポが悪く、とにかく笑えない。

別にぶっ飛んだ設定でも、多少の辻褄が合わなくても、笑えさえすれば許容できたのですが、ギャグシーンは「俺たち今からふざけたことしますよ」「おもしろいことしてますよ」という空気を惜しげもなく出してくるので緩急が無く、コメディ映画の体をなしていないんです。

 

コメディ映画って『キャラクターは一生懸命生きているのに滑稽に見えてしまう様』が面白いのであって、キャラクターがボケて観客を笑わせにかかってくると途端につまらなくなってしまいます。なのに本作では、音楽知識がないことを言い訳にしてボケてみたり(ドヤ顔でかける音楽とかDJセットとか)、とんかつや体操着のコスプレをしたり、オチのないDJ KOOの教則ビデオをダラダラ流したりと、キャラクターが置かれている状況で笑わせようとする工夫がありませんでした。

 

本作は作る前から「ギャグ漫画が原作=ふざけなければならない」という宿命を背負っていたんだと思いますが、そもそも「とんかつDJ」というぶっ飛び要素が根底にあるので、力技で笑いを取りに行かなくても十分にコメディとして成立したはずなのに、目先の笑いが欲しいためにナンセンスな方向に突っ走ってしまった。

これこそが本作の最大の失敗であり、(少数派意見かもしれませんが)この映画がつまらなかったと感じる理由になっていると思います。

 

唯一の正解はスポ根の定石をなぞることだった

 

映画「とんかつDJアゲ太郎」製作委員会

 

師匠であるDJオイリーに推薦してもらい、大きなクラブイベントでDJデビューすることになるアゲ太郎ですが、当日、意気揚々とプレイを始めたものの、フロアの空気を察することが出来ずに大失敗。落ち込んだアゲ太郎は戦意喪失し、DJになることを諦めてしまいます。

 

つまり、本作『とんかつDJアゲ太郎』は、
序盤で、主人公がDJになることを志し、
中盤で、挫折を経験し、
終盤で、仲間に支えられながら復活する

という極めてオーソドックスな構成になっていて、ここにサブプロットとして『ヒロインとの恋愛要素』『一人前のとんかつ屋になる第一歩を踏み出す要素』が入り込んでくるわけです。

 

そして、これは日本人が大好きな『スポ根映画』の構造にとても似ていて、本作がこの内容でいくのであれば、僕は、矢口史靖監督の『ウォーターボーイズ』に代表される2000年代に量産されたフォーマットをなぞる意外に勝てる方法はなかったんじゃないかと思っています。

 

例えば、映画『ウォーターボーイズ』は、水泳部だった妻夫木聡と美人な顧問目当てに入部した生徒たちが、竹中直人演じる怪しげなメンター(指導者・助言者)と出会い、一見するとシンクロとは関係のない仕事(ガラス拭き等)を強いられるものの、何故かシンクロ技術が向上し、文化祭で大団円を迎えるというストーリーでした。

 

一方、本作『とんかつDJアゲ太郎』もDJオイリーや父親という師匠がいたり、とんかつ屋で培われた技術がDJの所作にも活きるような作りとなっていて、間違いなく監督もそのあたりは意識していたはずです。

しかし、漫画では押し通せていたその『一見すると関係ない動きがDJに活きてくる応用ロジック』も、「アゲ太郎は半人前でとんかつを揚げられない」ことと「共通する動きが意外とない」という2つの大きな理由から、映像では説得力を持たせることは出来ず、遠慮がちにサラッと触れる程度で終わらせていました(編集の勢いで誤魔化してましたね)。

劇中でアゲ太郎に「とんかつとDJは同じなんだ」と言わせてる以上、本来であれば、とんかつを揚げる所作とDJの所作にもっと共通点を見付けて、観客が納得できる作りにしなければならなかったはずなんですが、それを中途半端なカタチで終わらせてしまったわけです。

 

つまり、それはどういうことかと言うと、「DJとは何たるか」を1ミリも知らなかった経験値のないアゲ太郎が、努力(練習や特訓)をしないまま精神論だけでDJプレイを習得してしまったように見えてしまい、こちらとしては「おいおい、DJってそんなに簡単なもんじゃねーよ」「曲を切り替えるだけがDJじゃねーからな!」と感情移入を妨げられてしまうことに繋がります。

DJって選曲は勿論大事ですが、スクラッチだって見よう見まねで出来るほど簡単じゃないし、曲と曲を繋ぐのだって難しい。

少なくとも、アゲ太郎たちは音楽やDJに関する知識がないわけですから、DJオイリーが円山旅館に転がり込んできた時点で(もしくはDJ KOOの教則ビデオで)、ターンテーブル、ミキサー、MPCプレイヤーなどの機材を簡単に説明しつつ、「DJとは何たるか」をプレイしながら見せることが必要だったんじゃないでしょうか。

そして、アゲ太郎に音楽やDJに対するリスペクトを持たせ、苑子ちゃん関係なしに、必死に努力をしてライバルに立ち向かっていく……。これがベストな展開だったと思います。

 

とんかつビートは良かった。でも……

 

デビュー戦での惨敗によってDJになることを諦めかけたアゲ太郎ですが、苑子ちゃんや父親からの後押しや、道玄坂ブラザーズの行動によってクラブの「レギュラーDJをかけたコンテスト」に出場することになります。

そして、その場で披露されるのが、キャベツの千切りの音、卵をかき混ぜる音、とんかつを揚げる音などをMPCプレイヤーでサンプリングした『とんかつビート』です。

 

この展開だけは正直アガりました。
かなり格好良いシーンになっていたと思います。

 

でも、良かったのはその一瞬だけで、その後は最悪。なんと、コスプレをした道玄坂ブラザーズがステージ上に現れ、意気揚々とラップを披露していきます。しかも、フロアにいるのはとんかつを食べられると思って押し寄せた「とんかつ同好会」とかいう謎の軍団。

確かに自分の生まれや境遇をリリックに乗せるのはHIP HOPとして正解なのかもしれませんが、そもそもラップが下手くそだし、だったらもっとキャラクターを掘り下げないと駄目。

と言うか、アゲ太郎のデビュー戦の時から疑問に思っていたんですが、この映画を作った人たちって誠意がないと言うか、クラブカルチャーを完全に舐めているとしか思えないんですよね。渋谷ってHIP HOPの聖地と言ってもいいぐらいクラブカルチャーが根付いている場所なのに、耳の肥えた客たちがあんな素人ラップを聞かされてアガるんでしょうか。とんかつを目当てに来た人たちがノリノリで踊ったりするのでしょうか。ギャグ漫画が原作なんだから文句言うなよ……と言われるかもしれませんが、あれ、完全にスベってませんでしたか?

 

繰り返しになりますが、クライマックスに入る過程で、アゲ太郎はDJに対するリスペクトを微塵も見せていませんし、血の滲むような努力も特訓もしていないので、一見すると盛り上がってるように見えるシーンも、よく考えれば既存の音楽の力で強引にアゲているだけで、映画的には全くカタルシスがない状況が生まれてしまっています。

 

おまけに、アゲ太郎が最後に選曲したのは、苑子ちゃんが円山旅館でかけたべリンダ・カーライル『Heaven Is a Place on Earth』。この曲は、BPMも遅くて盛り上がりに欠けるし、フロアをアゲる音楽ならもっと他にあったはずです(つまり、旅館の時点で別の曲にすべきだった)。

コンテストの結果に関してはあえて書きませんが、「あぁ、そうなんだ。で、なんでそっちに移動してるの?」って感想ぐらいしか持てませんでしたね。

非常に残念でした。

 

まとめ

 

いかがだったでしょうか。

色々と言ってきましたが、これまで暗めの役ばかりを演じてきた北村匠海の新たな面を見ることが出来ましたし、ダンスやDJの所作など彼のフィジカルは素晴らしかったと思います。他にも、山本舞香は「主人公が憧れるヒロイン」を見事に演じていて良い女優さんだと思いました。

あと、伊藤健太郎の「まんまとアゲられたよ」とか、伊勢谷友介の「俺の部屋に勝手に入るな」といった台詞とか、沢尻エリカの行きつけのクラブ『WOMB』がロケ地になっているところは笑いました。

 

ただ、やっぱり「とんかつとDJは同じなんだ!」という説得力は全然ないし、アゲ太郎がDJに対して全くリスペクトを示さず、必死になって練習をしなかったのは完全なる脚本の落ち度だと思います。あれじゃ、DJは好きな女の子を振り向かせるためだけの手段にすぎず、アゲ太郎が本当にDJをやりたかったのかが分かりません。

二宮健監督が脚本を書き、喜安浩平が脚本協力としてスタッフに名を連ね、(エンドロールを見る限り)プロット協力にも3~4名参加しているのに、なんでこんなにとっ散らかった脚本になってしまったんでしょうか。

やっぱり僕と二宮監督との相性が悪いんですかね。
いつも、題材は興味深いだけに本当残念です。

 

ともあれ、3人のスキャンダルが出てもなお公開に踏み切れたということは映画界にとっても意義のあることだと思いますし、「面白かった」と感想を言っている人も大勢いますので、興味のある方は是非映画館でご覧ください。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。

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