『ミッドナイトスワン』感想 2020年の邦画を代表する作品が誕生! 草彅剛の新境地と本作デビューの新人・服部樹咲の才能に括目せよ!【ネタバレあり】

映画レビュー
(C)2020「MIDNIGHT SWAN」FILM PARTNERS.

 

今回取り上げるのは、草彅剛主演の『ミッドナイトスワン』

監督・脚本は昨年Netflixで大ヒットを記録した『全裸監督』内田英治、音楽を世界で活躍する音楽家・渋谷慶一郎が務めます。

 

内容は、トランスジェンダーとして生きる凪沙と育児放棄された少女・一果との出会いから別れを描いた《ラブ(家族愛)ストーリー》で、オーディションでヒロインの一果役を射止めた服部樹咲(みさき)は、本作が女優デビューとなります。

共演は佐藤江梨子、平山祐介、水川あさみ、田口トモロヲ、真飛聖と演技力に定評のある俳優陣ばかりですが、本作最大の注目は何と言っても、草彅剛がトランスジェンダーをどう演じるのか。奇しくも、今月は関ジャニ∞の大倉忠義が映画『窮鼠はチーズの夢を見る』で同性愛者と関係を持つ役を体当たりで演じ好評を博したばかりですが、かつての事務所の先輩として、そして、俳優の先輩として貫録を見せつけたいところです。

 

しかし、同時に、セクシャルマイノリティを扱う以上、それなりに批判の声も出てくるでしょうし、ストーリーがかなり“ありきたり”な気もしています。

草彅剛は本作の台本を見た時に「これは僕の代表作になる」と思ったそうですが、果たして、難解な役をどう演じたのか……。

それでは、いってみましょー♪

 

9月25日公開『ミッドナイトスワン』60秒予告

 

映画『ミッドナイトスワン』の公式HPはこちら

 

あらすじ

 新宿のニューハーフショークラブ〈スイートピー〉では、メイクしステージ衣装に身を包み働くトランスジェンダーの凪沙(草彅剛)。洋子ママ(田口トモロヲ)が白鳥に扮した凪沙、瑞貴、キャンディ、アキナをステージに呼びこみ、今夜もホールは煌びやかだ。

「何みとんのじゃ!ぶちまわすど!」
広島のアパートでは、泥酔した母・早織(水川あさみ)が住人に因縁をつけていた。
「何生意気言うとるんなあ!あんたのために働いとるんで!」
なだめようとする一果(服部樹咲)を激しく殴る早織。

心身の葛藤を抱え生きてきたある日。凪沙の元に、故郷の広島から親戚の娘・一果が預けられる。
「好きであんた預かるんじゃないから。言っとくけど、わたし子供嫌いなの」
叔父だと思い訪ねてきた一果は凪沙の姿を見て戸惑うが、2人の奇妙な生活が始まる。

凪沙を中傷したクラスの男子に一果がイスを投げつけ、凪沙は学校から呼び出しを受ける。
「言っとくけどあんたが学校でなにをしようと、グレようとどうでもいいんだけどさ、私に迷惑かけないでください。学校とか、謝りにとか絶対行かないって先生に言っといて」
バレエ教室の前を通りかかった一果はバレエの先生・実花(真飛聖)に呼び止められ、後日バレエレッスンに参加することになる。

バレエの月謝を払うために凪沙に内緒で、友人の薦めで違法なバイトをし、警察に保護される一果。
「うちらみたいなんは、ずっとひとりで生きていかなきゃいかんけぇ……強うならんといかんで」
凪沙は、家庭環境を中傷され傷つく一果を優しく慰める。

やがて、バレリーナとしての一果の才能を知らされた凪沙は一果の為に生きようとする。そこには「母になりたい」という思いが芽生えていた……。

                         『ミッドナイトスワン』公式HPより引用

スタッフ

 

監督・脚本内田英治
エグゼクティブプロデューサー飯島三智
プロデューサー 森谷雄 森本友里恵 
ラインプロデューサー尾関玄
撮影伊藤麻樹
照明井上真吾
美術我妻弘之
編集岩切裕一
音楽渋谷慶一郎
製作CULEN
製作プロダクションアットムービー
配給キノフィルムズ

 

キャスト

 

(C)2020「MIDNIGHT SWAN」FILM PARTNERS.
凪沙草彅剛
桜田一果服部樹咲
瑞貴田中俊介
 キャンディ 吉村界人
アキナ真田怜臣
桑田りん上野鈴華
 桑田真祐美 佐藤江梨子
桑田正二平山祐介
武田和子根岸季衣
桜田早織水川あさみ
洋子ママ  田口トモロヲ  
片平実花真飛聖

 

感想(ネタバレあり)

 

総評

 
草彅剛の真に迫った演技だけでも一見の価値ありだが、本作が女優デビューとなった新人・服部樹咲がとにかく素晴らしかった。クライマックスの海のシーンは、一果(服部樹咲)の踊りと渋谷 慶一郎のピアノ曲が相まって邦画史上No,1じゃないかと思うほど美しい。

ただ、本作のセクシャルマイノリティーの描き方に対して否定的な考えを持っている人の気持ちも分かる。それでも、草彅剛という全国民が知ってるスターがトランスジェンダーの役を演じたことは問題提起という観点からも意義があると思うし、議論を促すためにも是非多くの人に映画館で観てもらいたい。

2020年の邦画を代表する傑作。
是非、この作品には年末の映画賞を総ナメして貰いたい。
 

 

……はい。という訳で、色々と思うところもありますが、心の底から「観て良かった」と思える作品でした。間違いなく今年の邦画を代表する1本だと思うし、コロナ禍ではありますが、今すぐ音の良い映画館で観るべきです。

 

確かにストーリーだけ見れば『主人公が見知らぬ子を預かることになり、反発しながらも次第に心を通わせていく』という何処かで聞いたことのあるような話だし、2017年の映画『彼らが本気で編むときは、』(荻上直子監督)では、ジャニーズ事務所の生田斗真が血の繋がらない子どもと暮らすトランスジェンダーの役を演じているので、そこまでセンセーショナルなわけでもありません。LGBTを扱った映画も近年はかなり増えています。

ですが、ストーリーを構成するプロットや演技、音楽、映像、踊りは、他の邦画と比べても格段にレベルが高く、僕は本作が、キャスト・スタッフがそれぞれ最高の仕事をして、新人女優・服部樹咲の才能を爆発させた傑作だと思っています。

 

 

タイトルを見ても分かる通り、この映画でモチーフとして使われているのはクラシックバレエ作品の『白鳥の湖』です。

劇中で踊られていた『白鳥の湖』の第2幕は、悪魔の呪いによって白鳥にされてしまったお姫様の話で、彼女は夜の間しか人間の姿に戻ることが出来ません。そして、その呪いを解く唯一の方法は(まだ誰も愛したことのない男性から)愛を誓ってもらうこと。これは、主人公の凪沙を含め、一果や彼女の親友・りんにも当てはまり、傷つきながら生きてきた彼女たちが『本物の愛』を受け取れるか否かが物語の大きなテーマとなってきます。

 

草彅剛の真に迫る演技について

 

(C)2020「MIDNIGHT SWAN」FILM PARTNERS.

 

まずは主役を演じた草彅剛から。

本作は、母親に頼まれた凪沙が育児放棄をされている親戚の一果を預かるところからスタートし、生活をともにしているうちに少しずつ距離が近付いていって、やがて凪沙の中に『母親』としての自我が芽生えていく……というストーリーです。

そして、凪沙は一果との関係性が変化していくにつれて、少しずつ口調や態度、表情を変えていかなければならず、これだけでも大変難しい役だったと思います。

 

しかし、僕が草彅剛の凄みを感じたのは、それ以外の部分です。

凪沙という人間は、時と場合と場所によって複数の顔を使い分けている……つまり『常に相手が自分のことをどう見ているか』を気にしているキャラクターで、草彅剛は一果の前だけでなく、対峙した全ての人物に合わせて演技をしていました(例えば、職場であるクラブ〈スイートピー〉だけでもステージ上、接客中、楽屋で全然違う凪沙になっていた)。

 

僕は子どもの頃からSMAPを見て育ってきた世代で、草彅君の出ているTVドラマや映画は数多く観てきたつもりです。それでも、外見や口調は勿論、細かい所作や目線の動かし方……もっと言うと歩幅や歩くスピードまで凪沙が完全に憑依した草彅剛の演技をスクリーンの中に観て心底驚きました。

これまで名だたる演出家たちが『草彅剛は天才だ』と言ってきましたが、まさに天才のみが為せる仕事。この作品を観て「草彅君の演技はイマイチだった」と言う人はほとんどいないんじゃないでしょうか。
それぐらい圧巻の演技だったと思います。

 

素晴らしかったシーンを挙げていくとキリがないので、1つだけにしますが、特に印象的だったのは、バレエ教室で片平実花(真飛聖)から間違えて「お母さん」と呼ばれた時の表情です。恐らく凪沙が人生で一度も経験したことのないであろう『最良の時間』を笑顔一発で表現していて、見事だと思いました。どちらかと言うと辛いことの方が多く起きる映画ではありますが、こうした一瞬の煌めきで映画を華やかに出来る俳優はそう多くはありません。

「これが僕の代表作になる」

台本を読んだ時に草彅剛が感じた直感は正しかったですね。彼の長いアイドル人生・俳優人生を考えてもベストアクトだったように思います。

 

新人・服部樹咲の技術と存在感

 

そして、服部樹咲です。

個人的に本作で最も凄いと感じたのは彼女でした。何故なら、一果役は服部樹咲にしか演じることが出来なかったから

バレエ経験者に限定されたオーディションで数百人の中から選ばれた彼女は本作で女優デビュー。つまり、今まで演技なんてしたことのないド素人でした。

しかし、草彅剛佐藤江梨子、平山祐介、水川あさみ、真飛聖など名だたる俳優たちを前にしても一切負けることなく、むしろストーリーが進むにつれてその存在感がどんどん増していったように感じます。

 

そして、そんな彼女の凄さが分かるエピソードとして、パンフレットにこんな話が載っていました。本作は物語の頭から撮影を始めたらしいのですが、草彅剛が最初の撮影の感想をこう振り返っています。

 

「正直、本番が始まるギリギリまで、ここは経験のあるこっちがリードしていかなきゃダメだろうなとか思ってたんですけどね」

「うわ、ちょっと待てよと。さっきまでいた樹咲はどこ行っちゃったんだと。それまでいた姑息な自分が吹っ飛んで、完全にビビっちゃってる自分が現れて」

 

最初のシーンを撮る直前まで、服部樹咲は監督から物凄く厳しく指導をされていたそうです。そして、それを見ていた草彅剛は自分がリードするつもりでいたのですが、いざ本番で対峙したら『撮影開始前にあった演技プランが物の見事に吹っ飛ばされた』と証言しています。

草彅剛は、トランスジェンダーを演じるにあたり、色んな人から話を聞いたり、資料を徹底的に読み込んだりして役作りに励んだそうですが、服部樹咲の凄みを前にしてその準備を全て捨てることにしたわけです。

 

芸歴30年を超える草彅剛にそう思わせた13歳。
それだけでも末恐ろしい女優であることが分かると思います。

 

彼女が演じた一果は、心を閉ざした状態から始まり、最終的には全身を使って自分を表現するという非常に難しい役どころです。

しかし、その成長プロセスに一切の違和感は無く、クライマックスの海のシーンでは渋谷 慶一郎の幻想的なピアノ曲も相まって日本映画史に残る(と僕は思っている)ほどの美しい踊りを披露していました。

まず脚本があってそれに最も相応しい俳優を選ぶ。このことが良い作品を作る上で如何に大事かが改めて分かったような気がします。

今後、服部樹咲が女優の道を進むのか、バレエの道を進むのかは分かりませんが、また一回り成長した彼女の踊りを見てみたいと思いました。

 

欠点になりうる点

 

一方で、この作品に不満を抱く人も少なからずいるだろうとも思いました。

 

一番はやはりセクシャルマイノリティの描き方ですね。
映画を観た方なら分かると思いますが、本作では主人公の凪沙と一果の親友・りんが命を落とすことになります。

 

凪沙は『女』になる以上に『母親』になることを望み、タイで性転換手術を受ける訳ですが、合併症を引き起こし、念願だった海に行ったところで命を落とします。

一方、りんは金持ちの家庭に生まれ、何不自由なく生活をしてきましたが、親の過度な期待・干渉に悩まされており、自身の怪我を機に屋上から飛び降りてしまいます。本作の中ではりんのセクシャリティについては言及されていないものの、一果とキスをするシーンが描かれたことから、レズビアンやバイセクシャルの可能性を含んでいました(トランスジェンダーではなさそう)。

 

もちろん、セクシャルマイノリティの方々の生きづらさ・理解のされなさを描いている作品ではあるので、監督の意図は分かるのですが、命を落とすキャラクターが二人ともマイノリティ側である必要があったのかは少し疑問に思います。

もう少し苦しい想いや辛い想いをしている人たちに希望や勇気を与えられる結末でも良かったんじゃないでしょうか。その点は気掛かりでしたね。

 

また、本作『ミッドナイトスワン』はとにかく無駄がありません。それどころか登場人物が自分の感情を明確に吐露する場面も少ないし、シーンによっては説明不足なところがあるのも事実です(故に飛び飛びに感じる)。つまり、観客の想像に委ねられる部分がかなりあるので、そのようなところに不満を感じる人がいると思います。

 

おまけ ~パンフレットについて~

 

新型コロナウイルスの影響かは分かりませんが、本作は劇場で紙のパンフレットは発売されていませんでした。
その代り、Amazonでkindle版のパンフレットを買うことが出来るのですが、値段は平均よりも若干割高だし(1,200円)、実際に手に取って内容を確認することが出来ないので、目次だけ紹介したいと思います。

購入の際の参考にしてください。

 

・INTRODUCTION
・STORY……あらすじ
・CAST PROFILE……キャスト紹介
・CHARACTERS……相関図
・STAFF PROFILE……スタッフ紹介
・DIRECTOR’S INTERVIEW……内田監督インタビュー
・PRODUCTION NOTE……制作過程
・COMMENTS……各界著名人のコメント
・REVIEW……金原由佳によるレビュー
・REVIEW……芝山幹郎によるレビュー
・REVIEW……尾崎世界観によるレビュー
・NOVEL……小説版の冒頭
・SPECIAL PHOTOGRAPHY……草彅剛&凪沙
・INTERVIEW……草彅剛
・TALKS……草彅剛×内田英治

全52ページ フルカラー
発行所:株式会社文藝春秋

個人的な感想としてはかなり読み応えのあるパンフレットだったと思います。デジタル版だからもう少し安価でも良かった気がしますけど、もし興味のある方はお買い求めください。

 

まとめ

 

いかがだったでしょうか。

一つ個人的なことを言わせてもらうと、僕は今年の6月からTwitterをやっていて、劇場で新作映画を観る度に短評を載せてるんですけど、『いいね』の数は平均して10~30の間ぐらいなんですね。かなり調子良くても100~200ぐらい。

でも、本作のレビューは投稿直後からSMAPファン、草彅君ファンが拡散してくれて、週末の2日間で約450リツイート、1000以上のいいねを記録しました。これは絶賛の内容を拡散すれば集客に繋がると思われたことが全てだと思うんですけど、僕のところに送られてきたメッセージを読んだだけでも、これまで草彅君を支え続けきたファンの方々の愛情を感じ取ることが出来て、とても感動しました。

やっぱり長年芸能界の第一線を突っ走ってきた人たちは違いますね。
本人たちの偉大さはもちろん、ファンの人たちの熱量が凄かったです。

 

ブログの中では色々と懸念事項も書いてしまいましたが、総評にも書いた通り、僕は草彅剛という全国民が知ってるトップスターがトランスジェンダーの役を演じたことは問題提起という観点からも非常に意義があることだと思います。

本作の中でも、就職試験で男の面接官から「LGBT流行ってますよね。私も研修受けましたよ」と無神経に言われるシーンは、昨今のセクシャルマイノリティを取り巻く現状をリアルに描いていると感じたし、倉庫で働く際のヘルメットに本名を書かなければならない時の葛藤は見ていて胸が痛くなりました。

でも、その痛みって普段は当事者以外は気付きづらいんですよ。
だから、このような映画があるんです。
だから、草彅君みたいなスター性を持った優れた俳優が必要なんです。

 

決して幸せな結末が待っている映画ではありませんけど、映画『ミッドナイトスワン』は確実に2020年の日本映画史に残る作品だと思うので、気になった方は、是非、劇場でご覧ください。

きっと心を抉られるような未だかつてない映画体験が出来るはずです。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

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