映画『フェアウェル』感想 優しい嘘が国境を超える!オークワフィナ主演の実際にあったウソに基づく物語【ネタバレあり】

映画レビュー
(C) 2019 BIG BEACH

 

今回取り上げるのは『フェアウェル』

監督は本作が長編2作目となるルル・ワンで、主演を務めるは『オーシャンズ8』『クレイジー・リッチ!』の出演で一躍スターダムにのし上がった女優・ラッパーのオークワフィナ。中国系アメリカ人の父親と韓国系アメリカ人の母親を持つ彼女は、本作でアジア系として初となるゴールデングローブ賞主演女優賞(ミュージカル・コメディ部門)を獲得したことでも話題となっています。

 

本作は、2019年7月に全米わずか4館からスタートしたインディーズ作品なのですが、口コミで徐々に上映館数が拡大していき、3週目にはTOP10入りを果たすという異例の大ヒット。そして、本作に惚れ込んだA24が、Amazon StudiosやNetflix、フォックス・サーチライト・ピクチャーズを押しのけ破格の金額で配給権を勝ち取ったという経緯があります。

また、映画批評集積サイトのRotten Tomatoesでも批評家からの支持率が99%と高い評価を受けていて、ある程度のクオリティ・面白さが保証されている状態ではありますが、個人的には『オーシャンズ8』『クレイジー・リッチ!』があまり好きではなかったので心配ではあるところ。

果たして、前評判通りの傑作となっているのか……。

それではいってみましょー♪

 

泣ける…『フェアウェル』日本版予告編

 

映画『フェアウェル』の公式HPはこちら

 

あらすじ

 

 

NYに暮らすビリーと家族は、ガンで余命3ヶ月と宣告された祖母ナイナイに最後に会うために中国へ帰郷する。家族は、病のことを本人に悟られないように、集まる口実として、いとこの結婚式をでっちあげる。ちゃんと真実を伝えるべきだと訴えるビリーと、悲しませたくないと反対する家族。葛藤の中で過ごす数日間、うまくいかない人生に悩んでいたビリーは、逆にナイナイから生きる力を受け取っていく。

思いつめたビリーは、母に中国に残ってナイナイの世話をしたいと相談するが、「誰も喜ばないわ」と止められる。様々な感情が爆発したビリーは、幼い頃、ナイナイと離れて知らない土地へ渡り、いかに寂しく不安だったかを涙ながらに母に訴えるのだった。

家族でぶつかったり、慰め合ったりしながら、とうとう結婚式の日を迎える。果たして、一世一代の嘘がばれることなく、無事に式を終えることはできるのか?だが、いくつものハプニングがまだ、彼らを待ち受けていた──。

帰国の朝、彼女たちが選んだ答えとは?

                                映画『フェアウェル』公式HPより

 

スタッフ

 

監督・脚本ルル・ワン
原案ルル・ワン
「What You Don’t Know」
製作ルル・ワン
アニタ・ゴウ
ダニエル・テイト・メリア
アンドリュー・ミアノ
ピーター・サラフ
マーク・タートルーブ
クリス・ワイツ
ジェーン・チェン
 製作総指揮 エディ・ルービン
音楽 アレックス・ウェストン
撮影アンナ・フランケーザ・ソラノ
編集マイケル・テイラー
マシュー・フリードマン
製作会社レイ・プロダクションズ
キンドレッド・スピリット
デプス・オブ・フィールド
ビッグ・ビーチ
配給A24(米) ショウゲート(日)

 

キャスト

 

(C) 2019 BIG BEACH
ビリー・ワンオークワフィナ
ハイヤン・ワン(ビリーの父)ツィ・マー
ルー・チアン(ビリーの母)ダイアナ・リン
ナイナイ
(官話で父方の祖母を意味する語)
チャオ・シューチェン
リトル・ナイナイルー・ホン
ハイビンチアン・ヨンポー
ハオ・ハオチェン・ハン
アイコアオイ・ミズハラ
ユーピンツァン・ジン
アンティ・リンリー・シャン

 

感想(ネタバレあり)

 

総評

 
確かにオークワフィナの抑えた演技は素晴らしかったし、良い作品であることに異論はないが、中国の家族観というか、血縁にこだわり過ぎる強い絆みたいなものが苦手な自分にとってはそこまで感情移入の出来る作品ではなかった。

というか、ラストの大オチから逆算して考えると、そもそも全員が「絶対に助けたい!」とか「少しでも長生きしてほしい!」と思うことなく、『死ぬこと』ありきで話を進めるのが残酷で自分勝手に感じてしまう。

良いところも沢山あるし、酷評する人は少ないと思うが、個人的には期待値を超えられなかった印象。A24との相性がどんどん悪くなっていくな……。
 

 

……はい。という訳でTwitterのTLには絶賛のレビューが並んでいる本作ですが、正直、僕は可もなく不可もなくといった感じでした。

良い所もあるけど、悪い所もあるって印象です。

 

本作はルル・ワン監督の実体験がベースとなっている作品で、描いているのは〈優しい嘘〉中国で暮らす余命3ヶ月のおばあちゃんに病気の事実を隠しながら(結婚式を理由に)親族が集まってくるだけのストーリーです。

 

しかし、6歳の時に渡米していた主人公のビリーは、ナイナイ(おばあちゃん)に病気のこと・余命僅かなことを隠そうとする親族に疑問を持っています。

個人が尊重される西洋では患者に対して「癌」や「余命」についての告知義務がありますが(しないと犯罪)、東洋では、余生を穏やかに過ごしてもらいたいという思いから「本人には伝えない」選択肢もあって、その価値観・考え方の狭間で主人公が悩むわけですね。

劇中でも度々、国や世代間による考え方の違いが出てくるので、本作『フェアウェル』はそうしたギャップや批評性を楽しむ映画と言ってもいいと思います。

 

そして、そんな本作がアメリカでヒットした最大の理由は、恐らく『クレイジー・リッチ!』が大ヒットした背景と同じで、まず初めにアメリカにいる中華圏の人たちがこぞって劇場に足を運んだからだと思います。それでもここまで評価されるということは作品の持つ力が本物であり、違う文化圏の人たちの心にもきちんと作品の良さが届いた証拠でしょう。その証拠に、ルル・ワン監督は「Variety」誌から“2019年に注目すべき監督10人”にも選ばれており、いま最も期待されるフィルムメーカーの1人とされています。

映画『mid90s』ジョナ・ヒルもそうでしたけど、A24は新人監督のフックアップが本当に上手いですね。

 

 

 

波を立てない穏やかな演出

  

まずは、本作の作風について。

繰り返しになりますが、この作品では、「ナイナイ(おばあちゃん)についた嘘がバレてはいけない」ことが大きな枷として存在しています。

しかし、主人公のビリーは感情がすぐに顔に出てしまうタイプで、両親から「嘘がバレるからお前は帰省しなくていい」と言われてしまい、ニューヨークに一人取り残されてしまいます。それでも、ビリーは大好きなナイナイにひと目会いたいと中国に渡るわけですが、いざナイナイと対面すると複雑な感情が沸き起こり、上手く笑顔を見せることができません。

 

このビリーが中国に到着した時点で嘘がバレる・バレないのサスペンス調のコメディに振り切ることも出来たと思うのですが、ルル・ワン監督は笑いの要素を抑えながら、あくまでも淡々と物語を進めていきます(クスッとなる部分はあります。コメディというよりユーモアの類ですね)。

この辺りは「いかにもA24が好きそうな」テイストで、むしろ派手さが無くて良いと感じる人も多いと思います。しかし、僕にはどうしても真面目な優等生が書いたプロットのように思えてしまって、ラストの大オチ……つまり、実在する本物のナイナイが最終的に生存していることを考えると、もう少しコメディだったり、サスペンス寄りに作り込んだ方が鑑賞後のカタルシスはあったんじゃないかなと感じました。

 

例えば、墓参りのシーンや検査結果を改ざんするシーンみたいな起伏をもっと作って、『笑いを交えながらバレる・バレないの攻防を繰り返し、最終的にナイナイに「私は気付いてたよ。ありがとう」と言わせ、感動のエンディング』の方がベタではありますけど感動できたんじゃないでしょうか。

まあ、この作風だからこそ評価されている部分も多分にあると思うんですが、本作を観て『思ったより泣けなかった』『淡々としていた』という感想もチラホラ出てきてるみたいなので、賛否……というよりかは絶賛と普通で評価が分かれる作風のような気がしています。

 

良かった点

 

①オークワフィナの演技
本作で一番の注目ポイントは何と言ってもゴールデングローブ賞の主演女優賞(ミュージカル・コメディ部門)を獲得したオークワフィナの演技でしょう。

主人公・ビリーは「生まれた国」と「育った国」の文化や価値観・死生観の狭間で葛藤するわけですが、それと同時にアメリカでの生活(個人主義)にもどこか疲れていて、中国的な家族主義への憧憬もほのかに匂わせているキャラクターです。そして、そんな「見た目は東洋で、思想は西洋」という難しい役柄を淡々と素朴に演じきったオークワフィナは圧巻の一言でした。

しかも、彼女は中国語が喋れなかったようで、このビリー役を演じるためにわざわざ猛特訓して撮影に挑んでいます。個人的に彼女はコメディリリーフというか、もっとワチャワチャした役を演じる印象だったのですが、今回の演技で女優としての底力を見た気がしました。

 

②異文化とのギャップについて
ストーリーからも分かる通り、本作の舞台は中国で、出てくる会話もほとんどが中国語です。それ故に中国の暮らしや文化がふんだんに描かれるので、私たちはストーリーを追うと同時に日本と中国のギャップに驚かされることになります。

例えば、葬儀や法事の際に泣き屋がいたり、結婚披露宴に出席する人たちが普段着のようなカジュアルな服装だったり、家政婦が文字を読めなかったりと、日本では信じられないようなことが当たり前のように起こるわけです。他にも食文化や習慣、死生観など日本人の目から見ると新鮮に感じる部分は沢山あったのですが、これらの文化の違いを感じ取るだけでも本作を観る価値があると思いました。

アメリカから帰郷するビリーや、中国に嫁いでくる日本人のアイコを登場させていることからも、本作が他国から見た中国を意識しているのは間違いありませんし、「中国万歳!」じゃなくてちゃんと国民性を客観的に批評している部分もあるので、監督が表現する中国を楽しむのも本作の大きな注目ポイントだと思います。

 

気になった点

 

①狙い澄ました構図について
この作品には、カメラを固定して意図的に演者を中心に据えない【外した構図】が何カ所か散見されたのですが、「ちょっと洒落た構図にしてやろう」という監督の狙いが見えてしまい、集中力が削がれてしまいました。別に明確な意図があればいいんですけど、そこまで伝わってこなかったんですよね……。

 

②古い価値観について
劇中、独身で30歳のビリーに対してナイナイや親戚が「結婚はまだか?」「良い人はいないのか?」と尋ねるシーンが何回か出てきます。これは、中国にはまだ古い考えを持った人がいるという監督なりの皮肉だったのかもしれませんが、今のご時世で「早く結婚すべき」みたいな考え方はどうかと思うし、それらの台詞は最終的に着地するテーマと逸れてしまっているように感じました。

 

③日本人の描かれ方について
本作には、中国の家に嫁いでくる日本人・アイコが登場するのですが、彼女は最初、中国語や文化が分からず曖昧な笑顔でやり過ごすだけの存在です。しかし、結婚式が近付くにつれて少しずつ主人公家族と打ち解けてきていきます。

ただ、あの描かれ方だとただのおバカな子に見えちゃうし、披露宴で20代の男女が『竹田の子守唄』を歌うには違和感がありました。ちなみに、ナイナイは劇中でアイコのことを「ハッキリしない子」と小馬鹿にしていましたが、実際にアイコ役を演じた水原葵は中国を拠点にして活動するバイリンガル女優で、京都大学卒のメンサ会員という非常に頭の良い女性みたいです。

 

④告知する・しない以前に……
本作に登場する人たちは、全員が心の底からナイナイの身を案じています。遺産の話で揉めるなんてことはしていません。

しかし、不思議なのは癌患者であるナイナイが変なネットで入手した謎の薬を飲んでるだけで一切の治療をしていないということです。もしかしたら、ステージ4の癌患者に出来ることは限られているのかもしれませんが、家族の中に「1日も長く生きて欲しい」「早く病院に行って治療して!」「どうにかして助けたい!」と考え、奔走する人が誰も居ないことに疑問が残りました。これが国による死生観の違いなのか、民間療法すらお手上げの状態(という設定)なのかは分かりませんが、結果的にナイナイは亡くならないわけで、あのタイミングで全員が全員『死ぬことありき』で物事を進めるのは逆に残酷なんじゃないでしょうか。

もし、病院でイギリス帰りのイケメン医師が癌について言及しなければ、余命3ヵ月というのが『夢が叶わないビリー、結婚に踏み切れないハオハオ、仕事や人生に悩んでいる息子たちを呼び寄せて背中を押す』ためにナイナイと妹がついた〈嘘〉だった……みたいに解釈できたんですけどね。

インフォームドコンセントについて曖昧なまま「結果オーライ」で済ましていたのが少々不満でした。

 

まとめ

 

いかがだったでしょうか。

この病状や余命を告知する・しない問題は私たち日本人にもあって、祖父母が、両親が、自分が病気になった時にどうしたいか(してきたか)によってこの作品の見え方が変わってくるような気がします。

ちなみに僕の父も今年の初めに病気をして大きな手術をしたのですが、「ショックを受けてしまうから」という理由で、そのことを祖母には黙っていました。幸い手術は成功し、父も回復に向かっているのですが、あの時もしも父が亡くなっていたら祖母のショックは計り知れなかったと思いますし、果たして黙っていたことが正解だったのかと疑問に思うこともあります。


中国はユニバーサルヘルスケア……つまり、日本の国民健康保険のような保険制度がなく、重病を患っても適切な治療を受けられない人が多くいるとされています。しかし、本作に出てくる一族は、医療費には困らない程度には裕福だし、息子たちをアメリカや日本に送り出してたり、家政婦を雇ったりする余裕があります。

そういう意味ではこの作品が「今の中国の側面」でしかないのは明白ですが、米中の考え方や文化など色々な発見がある映画だと思うので、気になった方は是非劇場に足を運んでください。

泣けはしないけど、ほっこりする良い映画です。
お婆ちゃんっ子にはたまらない作品ですよ。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

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