『 星屑の町』感想・解説 のん出演作品は“点”ではなく“線”で観るとめっちゃエモい話【ネタバレあり】

映画レビュー
「星屑の町」フィルムパートナーズ

記念すべき1発目の映画レビューは能年玲奈ことのんの6年ぶりの実写映画『星屑の町』

劇作家・演出家の水谷龍二ラサール石井小宮孝泰が結成したユニット「星屑の会」によって1994年に第1作「星屑の町・山田修とハローナイツ物語」を上演。その後25年に亘って続いてきた舞台「星屑の町」シリーズ(全7作)が、ハローナイツのメンバーを変えず、ヒロインにのんを迎えて映画化。監督は森田芳光のもとで助監督をしていた水谷泰一(『の・ようなもの のようなもの』)。
……という作品です。

それではいってみましょー♪

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スタッフ

監督 杉山泰一(『の・ようなもの のようなもの』)
脚本・原作 水谷龍二(東芝日曜劇場『四月の雨』(RKB・TBS)
製作 高橋正弥
横山勇人
佐藤現
小金沢剛康
小笠原宏之
林哲次(企画)
嶋田豪(企画)
音楽 宮原慶太
撮影監督 佐光朗(J.S.C)(『海猿シリーズ』、『幕が上がる』、『ピンポン』)
撮影 的場光生(『アウト&アウト』、『東京無国籍少女』)
編集 栗谷川純
制作会社 メディアプルポ
ヒコーキ・フィルムズインターナショナル
アイエス・フィールド(協力)
製作会社 「星屑の町」フィルムパートナーズ
配給 東映ビデオ
イオンエンターテイメント(協力)
上映時間 102分

キャスト

natalie.mu
  • 天野真吾   …… 太平サブロー
  • 市村敏樹   …… ラサール石井
  • 山田修    …… 小宮孝泰
  • 込山晃    …… 渡辺哲
  • 西一夫    …… でんでん
  • 青木五郎   …… 有薗芳記
  • 久間部愛   …… のん

他には、『あまちゃん』でのんと共演している菅原大吉、三谷幸喜作品や『アンパンマン』の声優でお馴染みの戸田恵子、 『カンゾー先生』で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞している大ベテラン柄本明などが脇を固める。

ストーリー

「星屑の町」フィルムパートナーズ

「山田修とハローナイツ」。大手レコード会社の社員だった山田修(小宮孝泰)をリーダーに、歌好きの飲み仲間、市村敏樹(ラサール石井)と込山晃(渡辺哲)、青木五郎(有薗芳記)をコーラスに、大阪ミナミでくすぶっていた歌手の天野真吾(大平サブロー)をボーカルに迎えてスタート。途中から参加した西一夫(でんでん)は、ハローナイツの借金を肩代わりするのを条件に、博多の焼き鳥屋と4人の子どもを女房にまかせてメンバーになった。それぞれの事情を抱えながらグループを続けてきたものの、これといったヒット曲もなく、ベテラン女性歌手・キティ岩城(戸田恵子)と地方を回りながら、何とか細々と活動を続けている。

そんなある日、東北の田舎町でメンバーが出会ったのは、東京から出戻り、再び歌手になる日を夢見る田舎娘・愛(のん)。 突然、ハローナイツに入りたいと直訴して、大騒動に発展、すったもんだの末に、愛はハローナイツに加入することとなり、状況が一変!たちまち人気者となりスポットライトを浴びることになる。 思いがけず夢を叶えたかに見えたメンバーだったが─。

                                        (公式サイトより引用)

 

感想(ネタバレあり)

舞台を映画化した弊害か、とにかく脚本に粗が多過ぎる。
それでも、のんをヒロインに迎えたことは大正解。

一人の女優の軌跡として、一人でも多くの人に観て欲しい作品!

 

まず初めに言っておくと、僕はのん(能年玲奈)のファンです。
彼女の出世作である『あまちゃん』の第一話から心を奪われ、独立騒動のゴタゴタに心を痛め、『この世界の片隅に』でのカムバックに心を震わせてきました。

そして、この『星屑の町』がのんにとって6年ぶりの実写映画復帰作。

 

そんなの絶対観るに決まってるでしょうが!
新型コロナウイルスとか全然関係ねーし!

 

……てことで、新型コロナウイルスの影響と祈りつつ、218席中20席ぐらいしか埋まっていないテアトル新宿で観てきたのですが、正直言って映画としての完成度は高くありませんでした。

冒頭にも書いた通り、この作品はもともと1994年に劇作家の水谷龍二と、コント赤信号のラサール石井小宮孝泰が「星屑の会」という演劇ユニットを結成し、25年上演し続けてきた『星屑の町』シリーズ(全7作)を実写映画化しものです。

 

しかし、元が舞台作品であるが故にストーリに色々と問題があります。

 

まず、お話としては前半が『 田舎町にコンサートをしに来た「山田修とハローナイツ」にのん演じる愛が加入を直訴する話』、後半が『「愛とハローナイツ」がスターになっていく話』になっているんですが、これがまた非常にバランスが悪い。

百歩譲って「歌手を夢見る20代の女の子」が「田舎町に来た平均年齢70歳ぐらいの落ちぶれたおじさんコーラスグループ」に入りたいと言い出すのは良しとしましょう。
(一応、それっぽい理由もありますしね。全然納得出来ないけど)

でも、グループへの加入を直訴するのんの描き方が完全にやべぇヤツなんですよ。

もう、まともな会話のできないサイコパスが無邪気に笑いながら身勝手に自分の要求を押し付けてくる感じです。

「(ハローナイツに)入れてくれ」「約束したべ?」「なんでダメなんだ?」「さっきは良いって言ったじゃねえか」的なやりとりを鉄板ギャグかのように映画の中盤までダラダラと続けます。

多分これって、

 

① 舞台版が「田舎町に凱旋公演をしにきたハローナイツの楽屋」を1シチュエーションで描いていたから、映画脚本に落とし込むにあたって楽屋シーンを短くすることが出来なかった。

② のんを物語から退場させることは出来ず、必然的に直訴する時間帯が長くなった。

③ 結果、のんがコミュニケーションの出来ないやべぇ奴に見えてしまった。

 

……てのが、原因ですよね、きっと(舞台版を観てないので完全なる憶測です)。

確かに楽屋のシーンはそれぞれのキャラクター説明や仲間割れがテンポよく描かれるし、ベテラン役者たちの息の合った掛け合いは観ていて楽しい部分もあるんですけど、映画全体のバランスを考えると、もっと早く愛(のん)を加入させてドラマを動かしていった方が良かったように思います。

他にも、

  • 「愛の父親がハローナイツにいるかも疑惑の後付け感」
  • 「最後に天野真吾(太平サブロー)がハローナイツのもとに戻ってきた理由」
  • 「何故、愛は最後あの純烈みたいなグループに加入したのか」
  • 「そのカットOKなの?」と思わせる不自然なカメラワーク

などなど、鑑賞中に首を傾げたシーンは挙げればキリがありません。

結局のところ、舞台版のストーリーに突貫工事的にのんのエピソードを付け足した結果、ストーリーやキャラクターの掘り下げに失敗してるんだと思います。

ただ、のん戸田恵子が歌う昭和歌謡は凄く良かったです。
このシーンだけは彼女たちの歌声と存在感もあって老若男女楽しめると思います。

のん出演作品は“点”ではなく“線”で観るとめっちゃエモい話

と、ここまで色々と言ってきましたが、
「じゃあ、『星屑の町』観る価値のない駄作なのか?」と聞かれれば答えは「NO」です。

この映画、のん(能年玲奈)が好きなら絶対に観ておかなければなりません。

女優・創作アーチスト のん公式サイトより引用

その理由を説明する前に、のんという女優のこれまでを見ていきます。

そもそも、のん(能年玲奈)という女優が辿って来た道は、日本の長い芸能界の歴史を見てもかなり特異です。

NHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』のヒットで国民的な人気を得たのち、事務所との独立騒動が勃発。普通であればそのまま表舞台から姿を消し「芸能界引退」が濃厚なところですが、個人事務所で音楽活動や創作活動を地道に続け、ようやく巡って来たチャンス『この世界の片隅に』(片淵須直監督)をこれ以上ないレベルで大ヒットさせます。

では、どうして彼女は干されても叩かれてもここまでの存在感を示せるのか。

それはのんが“もってる女優”だからです。

 

小動物的な可愛らしいビジュアルとキラキラした目(子どものような無邪気さ)。

周囲の目を惹きつける魅力(放っておけないと思わせる力)。

自分の興味のあることに果敢に挑戦していく好奇心(意外と発信力もある)

ここぞという時に超良作に恵まれる作品運

 

彼女を形容する言葉は沢山あります。でも、それだけではありません。

のんという女優はその人生や出演作絶妙にシンクロしてるんです。

どういうことかご説明します。

 

のんの出演作には多くの共通点がある

 

代表作の構造

例えば、のん能年玲奈)の代表作と言えば『あまちゃん』と『この世界の片隅に』ですが、
この2作品、実は大枠だけを見たら非常によく似た構造を持っています。

 

あまちゃん』はのん(当時は能年玲奈)が演じる天野アキが
東京(引っ込み思案時代)
 北三陸に移住(海女になる)
⇒ 東京に戻る(アイドルになる)
⇒ 東北東日本大震災が襲う
 北三陸に戻る 話です。

一方の『この世界の片隅に』はのん演じる浦野すず(のちに北條すず)が
広島市江波(幼少期~18歳)
⇒ の北条家に嫁ぐ
 広島原爆が落ちる
 広島市に戻る(訪れる)
⇒ に戻る(帰る) 話です。

 

途中をかなり省略しましたが、
どちらも、のん演じる「主人公」が2つの場所を行き来していて、ある日、主人公のいないもう一方の(最初にいた・思い入れのある)場所に大惨事が起こる流れになっています。

この “行って帰ってくる” ストーリーは映画ではド定番な構造で(『スタンド・バイ・ミー』や『マッドマックス 怒りのデスロード』なんかは分かり易いですね)、同じく主演作の『ホットロード』でも主人公の宮市和希が「家出⇒親との和解」という理由で“行き来”をします。

そして、本来この物語構造を使って描くのは主人公の「気付き」や「成長」なんですが、のんの出演作にはそこに「理不尽と戦う」「逆境に立ち向かう」要素がプラスされます。

“行って帰ってくる” ストーリー ではありませんが、映画『海月姫』でも 土地開発によるアパート「天水館」の取り壊しを阻止するために奔走する役でしたしね。

 

本人と役のシンクロ

次に本人のパーソナリティと作品の中の役の共通点についてご説明します。

兵庫県出身ののんは現在26歳。女優の他に歌手創作あーちすと活動(絵や洋服づくり、監督)を行っているのですが、これも演じた役と非常にリンクしています。

例えば、『あまちゃん』、『星屑の町』では歌手(アイドル)を目指して上京しますし、
この世界の片隅に』のすずは趣味・特技が絵を描くこと
この世界の片隅に』、『海月姫』では洋服づくり(裁縫)をするシーンが出てきます。


他にもホームタウンを大切にしつつ、新天地でもちゃんと仲間・コミュニティを形成出来ているという特徴が一致しており(必ず彼女に手を差し伸べる・協力する人たちが現れる)、①で紹介した「理不尽と戦う」「逆境に立ち向かう」ストーリーも、騒動後に個人事務所を設立して奮闘する彼女の人生とシンクロしています。

また、のんが演じる役柄も、口下手天真爛漫オタク気質と彼女のパーソナリティに近い部分が随所に見られます。
これはキャスティングする側がのんのパーソナリティを見て起用している部分も大いにあるとは思いますが、『この世界の片隅に』のアフレコ時にのん片淵監督に疑問に思ったことを徹底的に質問攻めにしたというエピソードもあるほど演技に拘りがある女優なので、もしかしたら与えられた役を一回自分の中に落とし込んで表現するタイプ(役と自分の共通点を手繰りながら役作りするタイプ)なのかもしれません。

 

物語・キャラクター設定や役名に因果を感じる

のん(能年玲奈)の演じる役の設定や名前にも妙な共通点があります。

例えば、『あまちゃん』と『星屑の町』は岩手県久慈市が舞台で、のん(能年玲奈)も作品の中では岩手弁を喋っています。

そして、『あまちゃん』で演じた天野アキと、今回の『星屑の町』で演じた久間部愛はともに歌手を目指して上京しますし、『星屑の町』の愛が「父親かもしれない」と疑うのが太平サブロー演じる天野真吾で天野姓です。

また、これは完全にこじつけですが、
この世界の片隅で』で演じたすずは、能年玲奈と入れ替わるように台頭してきた広瀬すずと同じ名前ですし(広瀬すずの地位を確固たるものにした初主演ドラマ『学校のカイダン』(日本テレビ)は、独立騒動で降板した能年玲奈の代わりに抜擢されたと言われています。あくまでも噂ですけど)、『星屑の町』で演じた久間部愛は『あまちゃん』で相棒・足立ユイを演じた橋本愛と同じ名前で、何か運命めいたものを感じます。

 

これらのことを総合すると、今回の映画『星屑の町』は、のん(能年玲奈)の出演作品の中でも非常に大きな意味を持ってきますし、『あまちゃん』の主人公・天野アキのその後のように観ることもできます。

まとめ

いかがだったでしょうか。

のん(能年玲奈)の出演作には多くの共通点があり、作品単体ではなく流れで観るとめっちゃエモい理由が何となく伝わったんじゃないかと思います。

そのことを踏まえれば、映画『星屑の町』は決して「駄作」でも「星屑」でもなく、
全ての「のんファン」、いや、全国民必見の素晴らしい作品です。

舞台挨拶でラサール石井も 「これはのんちゃんの映画。スターというのはこういう人のことを言う 」と大絶賛してましたが、僕も完全に同意見です。

のんという女優が唯一無二の才能を持ち合わせていることは間違いないですし、何の制約もなく、どんどん映画やTVドラマに出演するべきだと思います。

今年が東日本大震災から9年目ということで、のんも『震災復興のアイコン』としてNHKの番組に少しずつ出演できるようになってきました。

来年は震災から10年目を迎え、彼女を求める声がますます大きくなってくると思うので、
是非、のんには国民的女優として完全なる復活を遂げて欲しいと思います。

てことで、『星屑の町』オススメです!!!

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