映画『MOTHER マザー』感想 長澤まさみが新たなる境地へ。でも、重いテーマの割には説得力が…。【ネタバレあり】

映画レビュー
2020『MOTHER マザー』フィルムパートナーズ

 

今回取り上げるのは長澤まさみ主演の『MOTHER マザー』

監督は『日日是好日』『さよなら渓谷』『まほろ駅前多田便利軒』大森立嗣

実際に起きた少年による祖父母殺人事件に着想を得た本作は、長澤まさみが最低最悪の毒親を演じたことでも注目を集めています。

 

そして、個人的注目ポイントは本作の製作会社が、昨年『宮本から君へ』『新聞記者』でホームラン級の作品をかっ飛ばしたスターサンズであること。

これは否が応にも期待せざるを得ません。

 

ってことで、僕も公開初日にオープンしたTOHOシネマズ池袋で観てきましたが、都内のコロナ感染者が増えている状況、作品のテーマ、夜遅い回ということを考えたら、健闘していると言っていいほどには人が入ってました(さすが長澤まさみ!)。

果たして、長澤まさみは新境地を開拓することができるのか……。

それではいってみましょー♪

 

映画『MOTHER マザー』公式サイトはこちら

あらすじ

シングルマザーの秋子(長澤まさみ)は、息子・周平(郡司翔)を連れて、実家を訪れていた。その日暮らしの生活に困り、両親に金を借りに来たのだ。これまでも散々家族からの借金をくり返してきた秋子は、愛想を尽かされ追い返されてしまう。金策のあてが外れ、昼間からゲームセンターで飲んだくれていた秋子は、そこでホストの遼(阿部サダヲ)と出会う。二人は意気投合し、遼は、秋子のアパートに入り浸るようになる。遼が来てから、秋子は生活保護費を使い切ってしまうばかりか、一人残した幼い周平を学校にも通わせず、遼と出かけたまま何週間もアパートを空ける始末だった。

周平が残された部屋の電気もガスも止められた頃、遊ぶ金がなくなった秋子と遼が帰ってきた。二人は、以前から秋子に気があった市役所職員の宇治田(皆川猿時)を脅して金を手に入れようとする。だが、遼が誤って宇治田を刺し、一家はラブホテルを転々とする逃亡生活を余儀なくされることに……。

そんな中、秋子が妊娠した。だが父親が自分だと認めない遼は、「堕さない」と言い張る秋子と周平を残して去っていく。ラブホテルの従業員・赤川(仲野太賀)と関係と持ち、敷地内に居候をつづける秋子は、周平を実家へ向かわせ金を無心するが、母の雅子(木野花)から今度は絶縁を言い渡されてしまうのだった。

5年後、16歳になった周平(奥平大兼)のそばには、妹の冬華(浅田芭路)がいた。秋子は定職にも就かずパチンコばかり。一方、周平は学校に行くこともなく、冬華の面倒をみていた。住む家もなくなった三人に児童相談所の亜矢(夏帆)が救いの手を差し伸べ、簡易宿泊所での新しい生活がはじまった。亜矢から学ぶことの楽しさを教えられた周平は、自分の世界が少しずつ開いていくのを感じていた……。

安息も束の間、遼が秋子たちの元へ戻ってくる。しかし借金取りに追われていた遼は、再び秋子と周平の前から姿を消すのだった。残された秋子は、周平にすがる「周平しかいないんだからね…」

母と息子は後戻りのできない道へ踏み出そうとしていた———。

                               映画『MOTHER マザー』公式HPより引用

 

スタッフ

監督大森立嗣
脚本大森立嗣 港岳彦
製作佐藤順子
製作総指揮河村光庸
音楽岩代太郎
撮影辻智彦
編集早野亮
制作会社スターサンズ
製作会社2020『MOTHER マザー』フィルムパートナーズ 
配給スターサンズ KADOKAWA

 

キャスト

2020『MOTHER マザー』フィルムパートナーズ
 三隅秋子 長澤まさみ
周平奥平太兼 (幼少期)郡司翔 
高橋亜矢夏帆
宇治田守皆川猿時
赤川圭一仲野太賀
三隅楓土村芳
三隅雅子木野花
川田遼阿部サダヲ

感想(ネタバレあり)

 

親子の共依存。歪んだ愛情を描いた作品。
現実の世界で起きた話とは思いたくないほど、目も当てられない悲惨な状況が延々と続くので、特に子供を育てている世代は終始胸糞悪いと思う。

ただ、取り上げた題材は社会に問題提起する意味でも重要だったし、長澤まさみがこの役を引き受けた意義は大きく、間違いなく彼女のターニングポイントになる。

脚本や映画としての見せ方には不満があり全体的な評価は低めだが、周平役を演じた奥平大兼と夏帆の演技がとても良かった。

 

映画化する意義は凄く感じた。でも……。

 

まず初めに言っておくと、僕は長澤まさみが好きです。

大ファンってほどではないですが、ほぼ同世代なので10代の頃から芸能界の最前線で突っ走ってきた彼女の姿をリアルタイムで見続けてきてましたし、ドラマと映画を合わせたら出演作も結構な数を観ています。

そして、そんな長澤まさみがシングルマザー役。
しかも、毒親で作品自体がかなりシリアス(←作風は好み)。

そりゃ観ない訳にはいかないっしょ!
というわけでウキウキしながらオープン初日のTOHOシネマズ池袋に足を運びました。

 

今回行ったのはスクリーン10。
音に拘っていて良い劇場でした♪

 

が、残念ながら映画を観た感想は微妙
もう少し何とかならなかったかなぁってのが正直なところです。

 

もともと、大森監督の作品は『タロウのバカ』『日日是好日』『さよなら渓谷』『まほろ駅前多田便利軒』ぐらいしか観てないんですが、あくまでも個人的には題材と演出のバランスが取れてない作品が多い印象なんですよね(監督ゴメンナサイ)。

 

本作でも鑑賞中に「最低な親だな」とか「現実にこんなことが起こるなんて……」みたいな印象は抱いたんですけど、それは選んだテーマの力であって、「あのシーン最高だったな」とか「斬新な演出だった」みたいな感想は抱きませんでした。

もう少し突き抜けるものがあれば良かったんですけどね。
こればっかりは相性が悪いだけなのかもしれません。

 

ということで、今回は気になったポイントを中心にお話ししていきます。

 

そもそもミスキャストなのでは……?

 

今作で主役の毒親を演じるのが長澤まさみ

Twitterなどの感想に目を通してみると、「迫真の演技だった」「美しかった」「(良い意味で)ひたすら不快だった」と好意的な意見も幾つかありましたけど、正直言って僕はハマり役とは言い難い……なんだったらキャスティングミスだと思ってしまいました。

もし、秋子役を同じタイトルのドラマ『Mother』にも出ていた小野真千子が演じていたら、同じく貧困を描いた映画『万引き家族』安藤サクラが演じたら、『彼女がその名を知らない鳥たち』阿部サダヲの良さを最大限引き出し、昨年のスターサンズ作品『宮本から君へ』でも池松壮亮を相手に熱演していた蒼井優が演じていたらと考えた時に、残念ながら『演技力』という面では確実に劣っていると言わざるを得ないと思います。

 

2020『MOTHER マザー』フィルムパートナーズ

 

というか、長澤まさみは最初から最後まで綺麗過ぎて、自分の親の殺害を子どもに命じるほど生活に困窮している人には見えないんですよ。

例えば、『男と会う時』はメイクしてて『子どもの前』は限りなくスッピンだとか、場面によって声のトーンを変えるとか、終盤へと進むにつれて顔が痩せこけていくとかそういった工夫があれば良かったんですが、目に見える変化は白髪ぐらい。

周平に罵声を浴びせる時なんか、浅香光代の「〇〇するんだぁよぉ~」みたいに聞こえちゃって笑いそうになってしまいました。

 

あと、濡れ場も自堕落で性に奔放な女を演じるならもっと攻めるべきだったと思います。

別に長澤まさみの裸が見たいとかじゃなくてね。
利己的な人間を描くなら本能剥き出しの性描写は重要だと思うんです。

例えば、大森監督『さよなら渓谷』では、真木よう子がガッツリ脱いで濡れ場を演じてましたし、『宮本から君へ』では蒼井優も山里亮太が心配になるほど濃厚なラブシーンを演じてましたけど、今回の長澤まさみはほぼ服を着たままで、尺もかなり短め。

きっと監督も秋子役が別の女優ならもっと踏み込んだ画を撮ったはずなのに、主演が長澤まさみだからそれが出来なかった……。

これはもう日本の芸能界のシステムとかそういう問題の話なので仕方ないと言えば仕方ないのですが、アイドル女優を経由してキャリアを歩んできた彼女には、少しばかりハードルの高い役だったのかなぁと思いました。

 

ただ、一方で、毒親のイメージのない長澤まさみが演じたからこそ重苦しい内容が緩和されたという利点もあります。

上記の三人が演じると、リアル&ヘビーで途中退席する人が続出する可能性がある内容だったし、長澤まさみが主演だから観に来た、最後まで観れたという人も確実にいると思うので、そういう意味では良かったのかもしれません。

 

 

次に阿部サダヲ

今回、相手役に今年50歳になる阿部サダヲが選ばれたのも不思議でした。
秋子が恋人に父性を求めるファザコン的な一面があったのでしょうか。

本作にはネグレクトや虐待等の他に『子育て世代の貧困の問題』の要素もあったので、相手役は絶対に長澤まさみに年齢が近い俳優を起用した方が良かったと思います。

 

松坂桃李とか斎藤工とか向井理とか、クズ役の出来る同世代(30代)の俳優なんて沢山いるんですけどね。

なんで阿部サダヲだったんだろう。

ていうか、彼の職業をホストにする必然性ってありました?
ダンスダンスレボリューションしてる姿を見て声掛けようと思います?

彼に関しては謎が多かったですね。

 

脚本について

 

脚本についても色々と思う所があるんですが、全部書くと長くなってしまうので、大きく2つに分けて説明します。

 

①人物の背景・社会の抱える問題・心理描写が薄い

あくまでも個人的な意見だし、賛否両論はあると思いますが、本作が映像化される意義ってこういう現実を世に知らしめることであり、『現実世界でもこのように苦しんでいる子どもが沢山います。社会全体で考え、行動しましょう』というメッセージを発するところにあると思うんです。

一応、社会問題を描いた作品だから。

でも、本作では秋子が最初から最後までクズ親で、何故このモンスターが誕生してしまったのかということが一切描かれていません。

ていうか、長澤まさみ阿部サダヲもナチュラルボーンクズすぎて、ただの胸糞悪いエピソードの羅列にしかなってないんですよ。

 

つまり、主役が1ミリも葛藤しないし、変化も成長もしない。
そういった微細な変化を全部、新人の奥平太兼に託そうとしている。

 

僕は本作の一番の問題はここだと思っているんですが、秋子が闇落ちした理由をサラッと描くだけでも物語の深みが増すし、一瞬でも自分のしていることに躊躇する素振りを見せたらかなり効果的だったと思うんですよね。

 

確かに母親(木野花)が感情的になるシーンもありましたが、父親は優しいし、秋子の妹を大学まで通わせてるところを見ると、三隅家は普通の家庭です。

じゃあ、どういった経緯で秋子が毒親になっていったのか。
何故、秋子と周平は共依存する関係になってしまったのか。

この辺りを描かなかったことは、ぶっちゃけ監督の逃げだと思います。

 

あと、本作が本来描くべきことの一つに、このような問題に無関心でいる人々だとか警察や法律、児相のシステムの不備に対する批判があるとも思うので、例えば夏帆「これ以上は踏み込めない!」と葛藤するようなシーンを入れてくれれば説得力がグッと増したんじゃないでしょうか。

 

②周平の動機について

子どもにとって、特に男の子にとって母親は唯一無二の存在です。
いくら周りから見たら「酷い」「在り得ない」と思われる関係でも、親子にしか分からない心の繋がりがあります。

だから周平はどれだけぞんざいに扱われても最後まで秋子から離れることをしなかったし、最後は母親の命令で祖父母を殺害してしまいます。

きっと秋子のことが心配で「僕が傍にいなきゃ」とか思ってたんでしょう。
秋子も「何があっても周平だけは傍にいる」と思っていたんだと思います。

 

でも、ですよ?

一方で周平は学ぶことの楽しさを知ってるし、妹の面倒もちゃんとみる。
自分で働いてお金を稼ぐことも出来る。
罪の意識もあるし、人を殺せば捕まることも知っている。
恐らくですけど、祖父母のことは嫌いじゃないし、
一時ですけど秋子たちから離れようともした。

そんな彼があの状況とタイミングで祖父母を殺しますかね?

勿論、実話ベースに作られていることは百も承知ですが、個人的にあそこで祖父母を殺害するのは『映画としての説得力』に欠けたと思います。

 

映画における説得力って『その状況なら自分も同じことしちゃうな』って思わせなきゃいけないと思うんです。

でも、あの時の周平には

妹を連れて逃げることも、
夏帆に助けを求めることも、
警察に駆け込むことも、
何とかして父親のもとに行くことも、
別の方法で金を得る(盗む)ことも、
全然出来た状況なわけです。

だから僕には周平があの場面で祖父母を殺すのは唐突に見えましたし、「共依存してる」とご丁寧に台詞で言われても全然納得が出来ません。

ていうか、周平ってそんな自制のきかないバカじゃないでしょ。
「お母さんが好きだから」とかいった理由で人を殺さないんじゃないですか?

もし、あの展開にするのであれば、夏帆に超絶嫌われ、警察には相手にされず、父親は新しい家庭を築いて幸せで、祖父母からも煙たがられて、妹が瀕死の状態で……みたいな描写を入れて『ダメだ! もう殺すしか道はない!』っていう本当に逃げ場のない状況を作り出さなければ成立しないと思いました。

秋子がピンチなら分かりますけど、ヤバいのは阿部サダヲでしたからね。
もうちょっと説得力が欲しかったです。

 

良かった点

 

本作の良かった点と言えば、やはり周平役を演じた奥平太兼君と郡司翔君の演技が光っていたことでしょうか。

そこに異論を唱える人は少ないように思います。

特に奥平太兼君は本作がスクリーンデビューとは思えないほど堂々としていましたし、今後の活躍が大いに期待できる逸材だと思いました。
誰も言及してないですけど、坊主姿が石原さとみソックリでしたね(笑)

 

それと、児相の高橋亜矢を演じた夏帆。

彼女の役も演技も良かったです。

『海街diary』(2015年)で姉妹を演じていたので長澤まさみとの掛け合いは安心して観れましたし、ちゃんとバックボーンが描かれた数少ない役でもあったので、演技の上手さも相まって、役に深みがありました。

脚本的に言うと、『ちゃんと人間が描けていた』のは夏帆の役だけだと思います。

 

あと、良かったのは対になっているシーン。

本作では同じようなシーンを2回描いて対比をするということを何か所かでしているのですが、特に三隅家から戻ってくる周平を秋子が境内で待っているシーンは工夫を感じました(ちなみに1回目はお金を貰えず失敗、2回目は殺害して帰ってくる)。

本文の最初の方で「印象に残るシーンがなかった」的なことを言ってしまいましたが、周平がTシャツを血で染めて歩くシーンはこの映画のもっとも盛り上がったシーンだったと思います。

 

まとめ

 

いかがだったでしょうか。

気になった点ばかりをクローズアップしてしまいましたが、本作が描こうとしていたことに異論がある訳ではなく、「このシーンとこのシーンを足せばもっと面白いのに!」という思いでダラダラと書き連ねてしまいました。

結局、本作のような作品って今現在自分の置かれている状況とか、これまで経験してきた出来事とかで大きく見方が変わってしまうんですよね。

そういう意味で、(もちろん心は痛めたけど)自分の人生とシンクロせずに観れたってことは、如何に自分が幸せな人生を送って来たか、両親が愛情をもって育ててくれたかってことを再認識出来て良かったと思います。

お父さん、お母さん、ありがとう(笑)

 

奇しくも今月は長澤まさみもう1つの主演作『コンフィデンスマンJP プリンセス編』が公開されるので、まさみファンとしてはそちらも楽しみにしたいと思います。

こっちはいつも通りのコメディエンヌっぷりが期待できそうですよ!

 

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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