『mid90s ミッドナインティーズ』感想・解説 ジョナ・ヒル初監督作品は90年代をリアルに再現した最高のジュブナイル映画だった!【ネタバレあり】

映画レビュー
© 2018 A24 Distribution

今回取り上げるのは、『マネーボール』『ウルフ・オブ・ウォールストリート』で知られる俳優・ジョナ・ヒルの初監督作品『mid90s ミッドナインティーズ』

本作は、2018年10月に全米4館で限定公開され、最終的には1200スクリーン超まで拡大したことでも知られていて、僕も当時「ジョナ・ヒルが映画を撮ったらしい」という情報は得ていたのですが、待てど暮らせど公開されず2020年9月4日に満を持して日本でも公開されました。

本作は、タイトル通り『90年代』のLAを舞台にした作品で、スケボーカルチャーや当時の音楽、スーパーファミコンなど懐かしいアイテムが盛り沢山。

更に、物語はジョナ・ヒルの半自伝的内容になっていて、全編16mmフィルムで撮影をするという拘りっぷりも話題を集めています。

果たして、ジョナ・ヒルは映画監督としてのデビューを華々しく飾れたのか……。

それではいってみましょー♪

 

映画『mid90s ミッドナインティ―ズ』の公式サイトはこちら

 

あらすじ

 

1990年代半ばのロサンゼルス。
13歳のスティーヴィーは兄のイアン、母のダブニーと暮らしている。
小柄なスティーヴィーは力の強い兄に全く歯が立たず、早く大きくなって彼を見返してやりたいと願っていた。
そんなある日、街のスケートボード・ショップを訪れたスティーヴィーは、店に出入りする少年たちと知り合う。
彼らは驚くほど自由でかっこよく、スティーヴィーは憧れのような気持ちで、そのグループに近付こうとするが…。

                            『mid90sミッドナインティ―ズ』公式サイトより引用

 

スタッフ

 

監督・脚本ジョナ・ヒル
製作ジョナ・ヒル/イーライ・ブッシュ
ケン・カオ/スコット・ルーディン
リラ・ヤコブ
製作総指揮スコット・ロバートソン
ジェニファー・セムラー
アレックス・G・スコット
音楽トレント・レズナー/アッティカス・ロス
撮影クリストファー・ブローヴェルト
編集ニック・フーイ
衣装ハイディ・ビヴェンス
製作会社ウェイポイント・エンターテインメント
スコット・ルーディン・プロダクションズ
A24
配給A24(米)
トランスフォーマー(日)

 

キャスト

 

© 2018 A24 Distribution

 

スティーヴィーサニー・スリッチ
イアンルーカス・ヘッジズ
ルーベンジオ・ガルシア
レイネイケル・スミス
ファックシットオラン・プレナット
フォース・グレードライダー・マクローリン
エスティアレクサ・デミー
ダブニーキャサリン・ウォーターストン

 

感想(ネタバレあり)

 

総評

 
最高だった!! 何もかも素晴らしい!!

16㎜フィルムの質感とファッション、音楽で90年代中頃のLAを忠実に再現しているので、監督と同世代の10代の時に90年代を過ごしていた人には確実にノスタルジーを感じられる作りになっていたと思う(そうじゃなくても、楽しめる要素は十分ある)。

ただ、13歳の少年が兄から暴力を振るわれたり、喫煙、飲酒、ドラッグ、SEX等に手を出すので、嫌悪感を抱く人もいるかもしれない。
観る人によって評価が分かれるかもしれないが、個人的には映画館で観れたことを心から良かったと思える作品。

『Waves』よ、これが本当のplaylist movieだ!!
 

 

……という訳で、さっそく始めたいと思うのですが、この作品はとにかく注目ポイントが多いので、簡単に纏めながらレビューを進めたいと思います。

 

 

映画『mid90s ミッドナインティ―ズ』注目ポイント!!

①ジョナ・ヒルの初監督作品である
本作は、アメリカ・ロサンゼルス出身の俳優・脚本家ジョナ・ヒルの監督デビュー作。彼は2004年に『ハッカビーズ』で俳優デビューしたのち、2011年の『マネーボール』と2013年の『ウルフ・オブ・ウォールストリート』でアカデミー助演男優賞にノミネートされた(ともに受賞ならず)、コメディからシリアスまで幅広い役を演じられる俳優です。
また、脚本家としては、自ら主演もこなした『21ジャンプストリート』が有名で、現在公開中の『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』オリヴィア・ワイルド監督)で主演を務めるビーニー・フェルドスタインは彼の妹にあたります。

 

②配給がA24
本作の配給は全ての映画ファンが注目しているといっても過言ではないA24。
A24は2012年に設立されるやいなや、わずか3~4年でアカデミー賞の常連になるほど新進気鋭の配給・製作会社です。主な配給作品としては、『ムーンライト』、『レディ・バード』、『ヘレディタリー/継承』、『ミッドサマー』などが挙げられるのですが、僕は今年公開された『Waves/ウェイブス』がすこぶる苦手だったので、正直、観る前は少し心配でした。

 

 

③90年代のLAを完全再現
本作は、全編16mmフィルムで撮影されており、アスペクト比は4:3(画面が正方形に近い)。予告を見れば分かると思いますが、ザラザラとした質感で見事に90年代の懐かしい感じを表現していました。そして、特に凄いのは衣装で、ハリウッドの売れっ子衣装デザイナー・ハイディ・ビヴェンス確実に94~95年の間で手に入る洋服を各地から掻き集め、登場人物のバックボーン等に合わせてスタイリングをしているところにあります。他にもスーパーファミコンやカセット、ストリートファイターなど懐かしいアイテムが沢山登場し、観客を90年代のLAに誘います。

 

 
④懐かしのヒット曲で彩られた作品
本作は、『Waves/ウェイブス』同様に、90年代のヒット曲が物語を彩ります。この選曲が絶妙で、懐かしさもあるんですが、(歌詞を押し付けるわけでもなく)ガン上がりの最高のBGMとして作品を盛り上げていました。
気になるプレイリストは以下の通りです。

 

『mid90s』playlist

曲名アーティスト
93 ‘Til InfinitySouls Of Mischief
Put It OnBig L
Supertouch/ShitfitBad Brains
Hybrid MomentsMisfits
Sucka Niggaア・トライブ・コールド・クエスト
Dedicated To The One I LoveThe Mamas & The Papas
I’m That Type Of NiggaThe Pharcyde
HooligansCount Lasher, Lyn Taitt
1-800-Suicideグレイヴディガーズ
Watermelon Manハービー・ハンコック
When the Ship Goes Downサイプレス・ヒル
Where Did You Sleep Last Nightニルヴァーナ
PonyGinuwine
MistadobalinaDel The Funky Homosapien
We’ll Let You Know – 2014 RemasterMorrissey
Liquid SwordsGZA
DanceESG
Passin’ Me ByThe Pharcyde
Wave of Mutilation (UK Surf)ピクシーズ
Kiss from a Roseシール

 

説明的でない見事な導入部

 

10代の頃、大人のしていることを真似をしてみたり、不良に憧れたり、偶然出会ったカルチャーに一瞬で胸を撃ち抜かれたりすることは、多くの人が経験することだと思います。

煙草、飲酒、喧嘩、SEX……それこそ女の子だったら化粧とかも入るのかもしれませんが、幼い頃の僕たちは無知を隠すために背伸びをし、恥を掻き、経験をし、少しずつ大人への階段を昇ってきました。

 

僕も若気の至りで、中学生の頃に初めて煙草を吸ってみたり、高校の文化祭の打ち上げで酒を飲んだり、バンドをしたり、それこそヒップホップ好きの友達に誘われてスケボーなんかをしている時期がありましたが(一瞬で飽きたけど)、本作の主人公・スティーヴィーもまた地元の不良(スケーター)たちに憧れ、勇気を振り絞って仲間に入れて貰い、お世辞にも “健全” とは言い難い日々を過ごしていきます。

 

 

本作の冒頭は、スティーヴィーが年の離れた兄のイアンから兄弟喧嘩の域を超えたDVに近い暴力を受けているシーンから始まります。

原因はイアンの留守中に部屋に勝手に忍び込んでいたことがバレたから

それでも、スティーヴィーはイアンの部屋にあるお宝(スニーカー、CD、カセット、筋トレマシーン等々)に興味津々で、部屋に忍び込むことを止めません。

スティーヴィーの目には、まだ自分が知らない・持つことの出来ない兄のコレクションはとてつもなく格好良く、キラキラして見えていたんですね。

 

大人でも『まずは外見から入る』という人は大勢いますが、13歳のスティーヴィーにとってもカルチャーへの憧れはそのまま『誰と一緒に過ごすか/どういうグループに属するか』へ繋がり、不良の世界に足を踏み入れるという物語への前フリとなっています。

しかも、注目すべきなのは、冒頭のシークエンスにほとんど説明描写を入れず、観客が自らの体験をもとに理解をし、共感できるギリギリのラインを攻めているところです(例えば、学校から帰ってきて、イアンが出掛けるのを待って部屋に忍び込んで、ひたすら遊び倒して、帰って来たイアンが異変に気付いて、殴られて~みたいな流れで説明しちゃうと物語全体がシャープになりません)。

オープニングのスケボーで作られた『A24』のロゴ然り、冒頭10分ぐらいで既にジョナ・ヒル監督のセンスの良さが光っていました。

 

 

そして、街に出たスティーヴィーは、スケボーショップの店頭に並んでいるスケートボードに魅了され、客を装って(幼すぎて全然客に見えないけど)店の中へと入って行きます。

すると、そこは地元のワルたち(10代のスケーター)の溜まり場となっていて、今まで聞いたことのない下世話な会話がポンポン飛び交っていました。

スティーヴィーは普段から閉塞感というか、家の中に何処か「居心地の悪さ」のようなものを感じており、レイたちが「自由で青春を謳歌しているカッコイイ人たち」に見えたんだと思いますが、そうなったら「僕もスケボーやりたい!」「あの人たちの仲間に混ざりたい!」と思うのが男の子ってもんです。

スティーヴィーは兄のイアンに頼み込み、大切なゲームとスケボーを交換して貰って、晴れてスケーターたちのコミュニティーに飛び込んでいきます。

 

正直、最初は「13歳って幼すぎないか?」と思ったんですけど、これが15~6歳ぐらいの分別が付く年齢だったら身の危険を感じてスケーターたちの輪に入って行けなかった可能性があるんですよね。そういう意味では、自分は納得出来たものの、年齢設定に違和感を感じてしまう人の気持ちも分かります。

  

尖った青春は痛みを伴う

 

晴れてイアンたちの仲間になったスティーヴィー。

スケートボードの腕前はなかなか上達しませんが、仲間たちからは “サンバーン” というニックネームで呼ばれ、少しずつ可愛がられていきます。

 

そこからクライマックスまでは、練習中に屋根から転落して流血するか警察に追われるぐらいしか物語上で大きな事件は起こらないのですが、スティーヴィーは溜まり場やパーティーで喫煙、飲酒、ドラッグ、性行為を初めて体験することになり、結果、レイたちからも認められ、少しずつ……いや、猛烈なスピードで大人への階段を駆け上がっていきます。

 

ですが、これは明らかに『真っ当な道』から外れている行為。しかも、スティーヴィーは『不良の友達の俺もすげぇ』理論で、自分が強くなったような錯覚を起こし、母親に反抗的になったり、これまで一方的に殴られ続けてきた兄・イアンに反撃するようになっていきます。

そして、その状況を見兼ねた母のダブニーはレイたちと遊ぶことを禁じるわけですが、当然、スティーヴィーはその言いつけなんて守りません。
勝手に家を飛び出し、再びレイたちのもとへ戻ってしまいます。

 

しかし、ここからが秀逸でした。

母親への苛立ちを隠せないスティーヴィーにレイが近付き、「お前は俺たちよりずっとマシな人生を送れているんだ」と諭します。

更に、ただ毎日を謳歌し、自由に生きているように見えていたスケーターたちも、それぞれに辛い事情を抱えていることが明かされるのです。

ファックシットは酒やドラッグに溺れていて、
フォース・グレードは靴下も買えないほど貧しくて、
ルーベンは薬物依存の母親から暴力を振るわれ

レイは弟を事故で亡くしている。

レイからしたら無邪気に付いて来るスティーヴィーが弟の姿と重なって見えたんでしょう。

レイは「当時、落ち込んでいた自分をファックシットがスケボーに誘ってくれて元気を取り戻すことが出来た。だから友達が落ち込んでいたら俺もスケボーに誘うんだ」と言い、そのままスティーヴィーを街へと誘います。

そして、二人で言葉を交わさずにただひたすら街を滑るわけですが、この時の夕暮れのシーンがとにかく美しく、僕はこのシーンが撮れただけで本作は『成功した』と言ってもいいと感じました。
それぐらい青春映画史に残る名シーンだったと思います。

 

 

で、本作のクライマックス。

ここから先は実際に観て欲しいので詳しく書きませんが、地元のスケボーショップ主催のスケボー大会が行われた日の夜に本作最大の事件(事故)が起こります。

スティーヴィーの半グレ物語に大きなターニングポイントが訪れるわけです。

個人的にグッと来たのは、ダブニーがレイの肩に手を置いた瞬間と、レイの「~その必要はないだろう」の台詞、ポケットからジュースを取り出したお兄ちゃんのシーン。

本作を観てない人は何のことかサッパリ分からないと思いますが、とにかく、ラストの全員でテレビに目を向けるシーンは、デビュー作としてではなく、1本の青春/ジュブナイル映画としてほぼ完ぺきに近いラストだったと思います。

 

あと、これも言及しない訳にはいかない音楽の使い方。
とにかくカッコイイ&懐かしい曲がガンガン流れてきてひたすら興奮してました。

曲のチョイスや流すタイミングもバッチリでしたね。

これは自分の世代やこれまで触れてきたカルチャーの問題でもあるのかもしれませんが、同じA24作品でも『Waves/ウェイブス』より断然『mid90s』の方が曲の使い方は良かったです。

『Waves/ウェイブス』は歌詞の意味に重きを置いていて(字幕で歌詞が出ていた)、本作はただシーンを盛り上げる、観客をアゲるためのBGMとして使っていたのが(歌詞は出ず)効果的だったと思います。

 

ジョナ・ヒル恐るべし。その一言に尽きますね。

 

まとめ

 

いかがだったでしょうか。

色々と言ってきましたが、結局のところ本作の最も優れてる部分って『無駄の無い計算しつくされた脚本』だと思うんですよね。

本作は上映時間85分と短めではありますが、最低限必要な情報だけ提示され、あとは観客の想像に委ねる作りにしながら(例えば、学校のシーンはないし、家庭環境の説明も少ししかない)、暴力や貧困、人種差別など現在にも通ずる普遍的な社会問題を至る所に配置しています。

その上に、キャストの素晴らしい演技や衣装、音楽が加わり、青春/ジュブナイル映画として最高のカタルシスを得ることが出来ました。

 

恐らく、スティーヴィーは大人になるにつれてレイたちとは距離を取っていくと思うんですが(道路を滑るシーンでスティーヴィーだけみんなとは逆の方向にフェードアウトすることが示唆している)、それでも彼らと過ごした日のことは一生忘れないし、彼にとって大きな財産になると思います。

決して法を犯す行為は許されないけど、どんな環境にいても信じ合える仲間がいて夢中になれるものがある。その尊さを改めて感じ取ることが出来たように思えます。

彼らの未来に幸あれ。

普通に超お勧めです。
是非、劇場でご覧ください。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。

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