今回取り上げるのは、主演・浜辺美波&北村匠海&福本莉子&赤楚衛二の4人が主演を務める『思い、思われ、ふり、ふられ』。
『ストロボ・エッジ』や『アオハライド』で人気の漫画家・咲坂伊緒による青春恋愛コミックを『ソラニン』『僕等がいた』などで知られる青春映画の名手・三木孝浩監督が実写化した作品です。
浜辺美波と北村匠海と言えば、2017年の映画『君の膵臓をたべたい』(月川翔監督)で一躍ブレイクし、2人揃って第41回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞したコンビ。
2019年公開のアニメ映画『HELLO WORLD』(伊藤智彦監督)でも共演していますが、実写での共演は3年ぶりとなります。
また、本作の原作である漫画『思い、思われ、ふり、ふられ』は9月18日に劇場用アニメの公開も控えており(当初は5月29日の予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で延期に)、「舟を編む」の黒柳トシマサ監督が手掛けると発表されています。
漫画×実写映画×アニメ作品(当然、ノベライズも発売されてますね)と久々に大きいメディアミックスが展開されている作品なので、この実写版は何としてでも良い流れを作ってアニメ版にバトンを渡したいところ……。
果たして、『ふりふら』は『キミスイ』に肩を並べるヒット作になるのか。
それではいってみましょー♪
映画『思い、思われ、ふり、ふられ』の公式HPはこちら
あらすじ
明るく社交的な朱里(浜辺美波)、内向的でうつむきがちな由奈(福本莉子)、クールな理央(北村匠海)、爽やかで天然な和臣(赤楚衛二)。偶然出会ったタイプの全く違う4人は、同じマンションに住み同じ学校に通う高校1年生。
親同士の再婚で「家族」となり、朱里に言えない恋心を抱える理央。そんな理央に憧れるけど自分に自信が持てない由奈。和臣に惹かれていき、自分の感情に戸惑う朱里。ある秘密を目撃してしまい自分の気持ちに蓋をしてしまう和臣。
一人の告白をきっかけにそれぞれの感情は複雑に絡み合い、相手を思えば思うほどすれ違ってしまう。
映画『思い、思われ、ふり、ふられ』の公式HPより引用
4人の切なすぎる《片想い》の行方は——
スタッフ
監督 | 三木孝浩 |
脚本 | 三木孝浩 米内山陽子 |
原作 | 咲坂伊緒 『思い、思われ、ふり、ふられ』 |
製作総指揮 | 山内章弘 |
製作 | 臼井央(企画・プロデュース) 春名慶(企画・プロデュース) 川田尚広 岸田一晃 |
音楽 | 伊藤ゴロー 小瀬村晶 |
撮影 | 柳田裕男 |
編集 | 坂東直哉 |
制作会社 | 東宝映画 |
製作会社 | 映画「思い、思われ、ふり、ふられ」製作委員会 |
キャスト
山本朱里 | 浜辺美波 |
山本理央 | 北村匠海 |
市原由奈 | 福本莉子 |
乾和臣 | 赤楚衛二 |
我妻暖人 | 上村海成 |
亮介 | 三船海斗 |
乾聡太 | 古川雄輝 |
朱里の母 | 戸田菜穂 |
感想(ネタバレあり)
前述した通り、本作『思い、思われ、ふり、ふられ』の原作は集英社「別冊マーガレット」連載中のコミックで、電子版も含む単行本の累計部数が450万部を突破している超人気作。
更に主演を務めた浜辺美波と北村匠海は、2017年の映画『君の膵臓をたべたい』(月川翔監督)をキッカケにブレイクを果たし、今やTVドラマや映画、CMと(北村匠海はバンドDISH//のリーダーとしても)大活躍している二人です。
また、主演の一人である福本莉子も第8回「東宝シンデレラ」オーディションのグランプリ受賞者で、もう一人の主演・赤楚衛二は『仮面ライダービルド』出身の期待の若手俳優。
しかも、主題歌を“今最も勢いのあるバンド”Official髭男dismが担当するという注目度抜群の作品です。
原作や座組みを見ても10代~20代女子をターゲットにした作品であるとは思いますが、芸能史的にも映画史的にも面白い分析が出来そうなので、僕も公開初日に観てきました。
さっそくレビューしていきたいと思います。
東宝と長澤まさみと浜辺美波と
まずは本作の注目ポイントから。
と言っても、ここからは完全に僕の想像(妄想)なので話半分に読んで下さい。
2017年に映画『君の膵臓をたべたい』が公開された時、僕は「ついに東宝芸能が動き出した」と思いました。
東宝芸能と言えば、宮本信子を筆頭に、沢口靖子、斉藤由貴、高島政宏、高島政伸、山村 紅葉、水野真紀など錚々たるメンバーが顔を揃える大手芸能事務所。
あのTOHOシネマズでお馴染みの映画会社・東宝が100%出資している会社です。
そして、この東宝芸能は、1984年から「東宝シンデレラ」という女優発掘を目的としたオーディションを不定期で開催していて、2000年の第5回大会でのちの看板女優となる長澤まさみを輩出しています。
しかし、ブレイク後15年近くに亘り事務所の顔としてだけではなく、若手女優の代表格として活躍してきた長澤まさみも気付けば30代。
まだ現役バリバリで活躍しているとは言え、彼女ほどの知名度や人気を誇る後継者は残念ながら事務所内に育っておらず、東宝芸能としても早急に次世代のスターを育てる必要がありました。
そこで、東宝(芸能)は、長澤まさみがブレイクするキッカケとなった2004年の『世界の中心で、愛をさけぶ』をもう1度再現しようと考え、2011年の第7回「東宝シンデレラ」でニュージェネレーション賞を受賞した浜辺美波に白羽の矢を立て『君の膵臓をたべたい』を作ります。
では、具体的になにをしたのか。
その手法は以下の通りです。
いかがでしょうか。
こうやって二つの作品を比べてみると、かなり多くの共通点がありますよね。
繰り返しになりますが、これはあくまでも僕の想像です。
しかし、東宝が『セカチュー』を意識しながら『キミスイ』を作ったことはほぼ間違いないと思いますし、東宝芸能が長澤まさみに次ぐ看板女優を育てたいのも事実だと思います。
そして、狙い通り『キミスイ』は興行収入35億円を超えるヒット作となり、主演の浜辺美波と北村匠海は2人揃って第41回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。今に至るまでTVドラマや映画、CMなどに引っ張りだこの存在となっていきます。
では、今回の『ふりふら』はどのような経緯で作られたのか。
恐らく、これまで咲坂伊緒原作の『アオハライド』(2014年)と『ストロボ・エッジ』(2015年)を映画化してきた東宝は、青春三部作の最終章である『ふりふら』を映画化する権利もゲットしていて、原作が完結したタイミングで公開することをかなり前から決めていたんだと思います。
※公式HPのプロダクションノートには『岸田一晃プロデューサーは、東宝で『アオハライド』『ストロ・ボエッジ』を実写化していたこともあり連載スタート当初から着目していた』と記載されています。
『ふりふら』は累計部数が450万部を突破している超人気作。
つまりこれは絶対に負けられない戦いです。
必ずヒットさせなければなりません。
であるからこそ、盤石な製作布陣を敷き、話題性のある浜辺美波と北村匠海のコンビを再び起用してヒットを狙いつつ、期待の若手・福本莉子と赤楚衛二を売り出そうと考えた。
大体こんな感じだと思います。
そして、浜辺美波主演で、ベストセラーが原作で、東宝映画製作ということは……。
そう。伝家の宝刀『セカチュー』⇒『キミスイ』の必勝パターンを使う時です。
その証拠に、ハッキリとは映っていませんでしたが、冒頭で乾和臣(赤楚衛)が市原由奈(福本莉子)に渡したDVDは『セカチュー』でしたし、赤楚衛が所属するトライストーン・エンタテイメントは『キミスイ』に出演した小栗旬の芸能事務所。『キミスイ』のようにアニメ映画化するところも同じです。
長澤まさみは『セカチュー』の2年後に映画『涙そうそう』や大河ドラマ『功名が辻』に出演し、その地位を確固たるものにしました。
浜辺美波も今現在、当時の長澤まさみに引けを取らないくらいのCM数や出演作がありますが、今後の活躍を占う意味でも本作『思い、思われ、ふり、ふられ』は非常に重要な一作となるわけです。
ちなみに超絶どうでもいい話ですが、僕は勝手に「浜辺美波が『キミスイ』のヒロインに選ばれた理由はイニシャルが『M』だったから説」ってのを唱えています。
もちろん、彼女は誰もが認める美貌の持ち主だし、スター性も兼ね備えていると思います。
でも、東宝芸能ってやたらと名前に『M』がつく人が台頭してくる傾向があって、長澤まさみ然り、浜辺美波、宮本信子、高島政宏、高島政伸、山村紅葉、水野真紀、上白石萌音、上白石萌歌と売れてる人はかなりの確率で名前に『M』がついてるんです。
たまたまなのか、日本人に『M』が多いのか、事務所が名前でゲン担ぎをしてるのかは分かりませんが、もし3番目の理由だとしたらちょっと面白いですよね(笑)
四者四様のキャラクター設定について
で、ここからが本題です。
今回の『ふりふら』は、同じマンションに住む4人の高校生が文字通り「思ったり、思われたり、ふったり、ふられたり」する青春恋愛映画です。
そして、この作品を語る上で最も重要なのが4人のキャラクター設定なので、まずは簡単に登場人物の紹介をしていきたいと思います。
山本朱里(浜辺美波)
明るく社交的。2度も親の離婚を経験していることから、再び家族がバラバラにならないよう家では空気を読みながら生活している。真っ直ぐな和臣に魅かれていく。
市原由奈(福本莉子)
内向的でうつむきがち。「小さい頃に読んでいた絵本に登場する王子様に似ている」という理由から理央に恋をする。
山本理央(北村匠海)
クール。イケメンで女子からモテる。告白できないまま姉弟になった朱里への思いを隠している。
乾和臣(赤楚衛二)
爽やかで天然。兄が役者になる夢を叶えるため家を飛び出し、家庭内がギクシャクしている。将来は映画を撮る仕事がしたい。
で、簡単に言うと、由奈は理央が好きで、理央は朱里が好きで、朱里は乾のことがちょっと気になっていて、乾は朱里が好きみたいな関係性。
一見すると朱里と乾は両想いに見えますが、「理央が朱里に惚れている(キスする場面を目撃する)」ことが大きな枷となって一筋縄じゃいきません。
そこから、状況を見て自分の気持ちを押し殺したり、玉砕覚悟で告白したり、疑心暗鬼になって告白を断ったり、相手が自分のことを好きだという理由で付き合おうとしたりと、少女漫画らしく惚れた腫れたの乱れ打ち。
このブログでは最終的に誰と誰が付き合うかまでは言及しないようにしますが、物語が展開していくにつれて4人の関係性がどんどん変化していって、ラストは2組のカップルが誕生します。
そして、恋愛要素と同じくらい重要なポイントが各キャラの成長です。
本作『ふりふら』では、4人全員が特有の悩みや弱さを持っており、恋愛を経験しながらそれぞれがその枷(ハードル)を乗り越える成長物語でもあります。
一番最初に出てくる枷は、朱里と理央の親同士が再婚したことにより好きな人と家族になってしまった設定。
正直、これは少女漫画にありがちなベタな設定と言うか、既視感があることは否めないのですが、本作の潔いところはこの『家族になってしまった』設定を物語がある程度進んだ段階で解消させてしまうところにあります。
それ以外にも、
朱里は空気を読むことが常態化してしまっていること
由奈は内気で自分に自信が持てていないこと
乾は両親と夢との狭間で葛藤していること
これら思春期特有であったり家庭の事情で悩みを抱えており、そっちの方が重要なファクターとなり、物語の推進力を作っていくわけです。
本作がただの恋愛映画であれば脱落してしまう人も多かったと思うのですが、こういった個々に乗り越えるべき枷が設定されているので、大人の鑑賞にも耐えうる作品となっていると感じました。
意外にも目立ったのは福本莉子&赤楚衛二だった
今回、4人が主人公と聞いた時、「そうは言っても、最終的に浜辺美波と北村匠海がおいしいところを持って行くんでしょう?」と思ったのですが、むしろ目立っていたのは福本莉子と赤楚衛二でした。
特に今回素晴らしかったのは由奈役を演じた福本莉子。
彼女の役は、初めは自分に自信がなく男子と喋ることすら苦手だったにも関わらず、理央に恋をしたことによって人間として大きく成長し、どんどん自分に自信をつけていきます。
それ以降も、友人として理央に寄り添う姿、別の同級生から告白をされ改めて理央への想いに気付いた姿、文化祭で理央の気持ちを受け止める姿など、色々と難しい役どころではありましたが、違和感なく生き生きと演じていたと思います。
個人的には、雨に『降られ』て雨宿りをしている中、理央に告白をして『振られる』シーンと文化祭のシーンは「一人の若手女優が次のステージへ足を踏み入れた瞬間」を観れたような気がしました。
監督の演出の力もあると思いますが、間の取り方や目線の動かし方など素晴らしかったです。
また、乾役を演じた赤楚衛二も恋愛に悩みつつ、複雑な家庭環境と映画監督になる夢の狭間でもがき苦しむ青年を上手く演じていて、彼の存在によって物語の深みが何倍にも増していたように感じました。
やっぱり映画ファンとしては、映画鑑賞が趣味で将来は映画監督になりたい高校生ってだけで無条件で応援しちゃいますよね。まあ、『マッドマックス 怒りのデスロード』の字幕派・吹き替え派問題は愚問だとは思いますが……。
ちなみに、タイトルにある『ふり、ふられ』は恋愛要素だけではなく『雨に降られる』というダブルミーニングとしても使われていて、雨のシーンでは印象的なことが起こりやすいのでその辺りも注目してみると面白いと思います。
まとめ
いかがだったでしょうか。
ストーリーに関してはあまり言及しませんでしたが、高校生の恋愛がテーマの映画って時点で予想を裏切るぶっ飛んだ展開はほぼ起こりませんし、最終的に概ね納得できる場所に着地するので、結末が気になるという方は劇場でご確認下さい。
個人的には、『もろ手を挙げて絶賛は出来ないが、ターゲットである若い女の子が観たらキュンキュンすること間違いなしだし、少女漫画が原作の映画が飽和状態の中、等身大の高校生を描いた作品としては良作の部類』というのが率直な感想です。
ただ、少し気になったのは浜辺美波の演技ですかね。
勿論、これまで普通の女の子から『賭ケグルイ』や『センセイ君主』のぶっ飛んだキャラまで幅広い役柄を演じてきたのは知っているんですけど、僕の中で浜辺美波は「真面目・大人しい子・優等生」というイメージが強くて、明るくて社交的で恋愛も普通にするって役が少し違和感がありました。
これって多分、彼女がこれまで演じてきた「漫画っぽいキャラ以外」の役のせいだと思うんですけど、例えば、長澤まさみは『セカチュー』の時点で肌を露出したり、水着になったり、キスシーンをしたり、丸坊主になっていたりしたじゃないですか。
でも、浜辺美波は結構な数の作品に出演しているにも関わらず、本作が初めてのキスシーンってぐらい慎重に役を選んできたので、そういった生々しさ・リアルさがイマイチ足りないんです。
今はまだいいですけど、20代になってもこのイメージが拭えないと役者としては確実にマイナスなので、今後はもう少し攻めた役を演じて欲しいなと思いました。
あと、12巻の漫画を2時間に纏めるという大々的な工事をしているにも関わらず、体感時間が長く感じたってのもありますね。
これは結構重要な事を台詞でポンポン言っちゃうから「そこまで言わなくてもいいよ」と食傷気味になったことが理由なんですけど、まあ、普段あまり映画館に行かない(メチャメチャ映画を観てるわけではない)若者にはプラスに働くことだと思うので、マイナスとは捉えないようにします。
とにかく、将来有望な若手4人のアンサンブルが初々しくもあり素晴らしいので、原作ファンの方、気になるキャストがいる方は劇場に足を運んでみてはいかがでしょうか。
普通にオススメです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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