本日取り上げるのは、映画『ケンとカズ』(小路鉱史監督)や最終回を迎えたばかりのヒットドラマ『恋はつづくよどこまでも』(TBS)で人気急上昇中の毎熊克哉と、空手家としても有名な女優・武田梨奈(『ワカコ酒』)がW主演を務める破天荒ロードムービー『いざなぎ暮れた。』。
今のところ上映館数は2館と少ないんですが、同じく2館から拡大上映されていった『カメラを止めるな』(上田慎一郎監督)の前例もありますし、世界的に評価が高い点、お客さんも結構入っていた点を考慮して、応援の意味も込めて取り上げたいと思います。
それではいってみましょー♪
公式ホームページはこちら
ストーリー
出雲の渚を弾丸のように走る黒光りする車、ダッジ・チャレンジャー。運転するのはイタリアン・マフィアみたいな出で立ちの男。彼は元新宿№1ホストで名前はノボル。助手席には金髪の恋人ノリコ。突然、夜中に叩き起こされて、高速を800キロノンストップで突っ走って連れて来られたのは“神様に一番近い港町”と言われる島根県美保関。その“サプライズ弾丸旅行”の中で、怖い人から頻繁にかかってくる電話をスル―しながら、ノボルはこっそりと秘密の目的を果たそうとする。
それは、実の親戚にオレオレ詐欺をすること。
しかしその日は運悪く12月3日。はるか2680年以上前から続く歴史的なお祭りが行なわれる、町にとって特別な日。
由緒正しい“聖なる岬”には不釣り合いな2人の道程は、地元の血気盛んな若人や東京のヤバい人を巻き込みつる、V8エンジンのように激しい音を立てて暴走し始める!
(公式サイトより引用)
スタッフ
監督・脚本・編集 | 笠木望 (『けっこう仮面 新生(リボーン)』、『Tokyo real』) |
製作 | 泉正隆 (『ジョゼと虎と魚たち』/共同エグゼクティブプロデューサー) |
エグゼクティブプロデューサー | 新田敦生(『ガキンチョ・ROCK』) |
プロデューサー | 覚野公一、森田耕司 |
現地プロデューサー | 住吉裕、岩成優子 |
ラインプロデューサー | 矢加部英達 |
撮影監督 | 原俊介 |
録音 | 田中秀樹 |
ヘアメイク | 長野一浩 |
衣装 | 長野一浩 |
音楽 | 栗谷和代 |
監督助手 | 東畑渉 |
助監督 | 富澤昭文 | 配給 | 吉本興業 |
キャスト
毎熊克哉
武田梨奈
青山フォール勝ち(ネルソンズ)
岸健之助(ネルソンズ)
和田まんじゅう(ネルソンズ)
感想(ネタバレあり)
色々とツッコミどころはあるものの、物語に引き込む力は抜群!
神秘的な田舎町の風景と、W主演の毎熊×武田の好演が相まって疾走感溢れる素晴らしいロードムービーに!
もともとこの作品は、吉本興業の地域発信型映画として企画がスタートしたのですが、撮影地の松江市、美保関の人々の熱い思いや製作スタッフ・吉本興業の尽力により当初予定していた15分から84分の長編作になったという経緯があります。
しかも、驚くべきことに撮影期間がたったの3日!
3日ですよ、3日っ!
予算や規模にもよりますが、日本映画の撮影期間はおおよそ15日~90日ぐらい。
個人的にも大好きな昨年の『メランコリック』( 田中征爾監督)が10日間、『カメラを止めるな』が8日間の撮影期間で話題になるぐらいなので、今作がいかに短い期間で撮られたか分かるかと思います。
にも関わらず、海外の映画祭では高い評価を受けていて、現時点でモナコ国際映画祭を始めとする32の映画祭で16冠の快挙を成し遂げています。
そりゃ観るっきゃないでしょ!
ってことで日曜日の夜にテアトル新宿で観てまいりました。
お客さんの入りは60~70名ぐらい。コロナで映画館が敬遠されている時期&メディアに取り上げられた回数を考えても、かなり健闘してると言っていいんじゃないでしょうか。
(少なくとも『星屑の町』とは比にならないぐらいの人数でした。のんちゃん頑張って!)
物語は厳格さを感じさせる日本海の波の音と、海岸線を走る主人公の愛車ダッジ・チャレンジャーのエンジン音(爆音)という相反する音の重なりからスタートします。
舞台は島根県美保関。
島根県と言えば出雲大社があることで有名ですし、今回訪れる美保関でも太古から続く諸手船神事(もろたぶねしんじ)が行われ “神様に一番近い港町” と呼ばれているようです。
そして、冒頭から主人公のノボルが借金の返済に追われていること、この町に“借金返済のアテ”があること、恋人のノリコとの関係性などがテンポよく描かれていき(車中の会話も自然で良かったですね)、この時点で二人の異物感というか、招かれざる客感MAXでワクワクが止まりません。
しかし、最高の滑り出しかと思いきや、ここで今作最大の謎が勃発します。
一連のやり取りの中で、借金苦のノボルは、この町で暮らす実のおばあちゃんからお金を騙し取るために、東京から島根までわざわざ車を飛ばして帰ってきたことが分かるのですが、さすがにそれは説得力に欠けます。
簡単に調べましたけど、東京から島根県まで高速代だけで片道約2万円はかかるし、アメ車だから燃費もメッチャ悪くてガソリン代だってバカにならないですよ?
しかも、おばあちゃんの現状を何も把握できてない上に(お金の有無は勿論、生存すら確認出来てるか疑わしい)、返済期限が迫ってる状況で片道10時間なんてかけられます?
まあ、企画の発端が地域発信型映画ってことなので、島根県を舞台にするのはマストだったのは全然いいですよ。神様に一番近い港町って設定も魅力的だし。
でも、ですよ。普通に考えて元新宿の№1ホストだったらもっと確実で効率の良い方法が幾らでもあるように思えてしまうし(万策尽きてると言われればそれまでだけど……)、
そもそもせっかく吉本が絡んでるなら、移動距離を考えても無難に大阪のホストって設定で良かったんじゃないですかね、そこは。
しかも、公式ホームページや各メディアで「実の親戚にオレオレ詐欺をする」って紹介されてますけど、実際にはオレオレ詐欺なんてしてないし(一応、嘘はつくけど普通に再会してお祝い貰うだけ。強いて言うなら結婚報告詐欺?)、これは僕の勉強不足でもありますけど、最後まで観てもタイトルの意味がイマイチ分からなかったし、細かい設定が気になっちゃう人はひょっとしたら序盤だけで低評価を付けてしまうんじゃないかなぁと思いました。
面白い映画に必要な要素をたっぷり詰め込んだ中盤~終盤
しかし、そんな疑問はなんのその、ここから先も物語の推進力は一切落ちず、主人公がラストまで葛藤・苦悩し続けます。
まず、おばあちゃんの家でノボルは “両親が新婚旅行に行くために貯めていた(けど結局使わなかった50万円の入った)預金通帳” を手に入れ、支払い期限までにキャッシュカードの暗証番号を解読しなければならないという大きな枷(タイムリミット)が生まれます。
そこからノボルは約束の時間を気にしつつ、
20年来会ってない父親の生年月日を調べATMへ ⇒ 空振り
ノボルたちを島から追い出したい義理の弟とのバトル ⇒ ノリコの蹴りで勝利
旅の目的がノリコにバレて大喧嘩 ⇒ 別れる(行動を別にする)
死別している母の生年月日を調べATMへ ⇒ 空振り
と、その都度、一喜一憂しつつ予期せぬハプニングに振り回され続けます。
何度も言いますが、この映画って90分ないんですよ。
それなのにここまでの展開を何の違和感も無く、それもテンションを落とすことなくぶち込むって結構すごいことだと思うんです。
しかも、主人公・ノボルのキャラ設定が秀逸。
冒頭から終始ウソをつきまくるクズ野郎なんですが、愛車への拘りだけは強烈。
それでも根は悪い奴じゃないってことをちゃんと演じていた毎熊克哉は凄い役者だと思います。
そして、最終的には1枚の写真から両親の思い出の地にまつわる数字に気付いて金を引き出すことに成功するんですが、最後にノボルが選んだ行動(というか、おばあちゃんのリアクションかな)には思わずグッときてしまいました。
それと、普段運動なんてしなそうなノボルが自転車で疾走するシーンや、ラストシーンがオープニングと対比になっている点もちゃんとロードムービーの肝を抑えていて素晴らしかったですね(軽トラってのがまた最高です)。
欲を言えば、ノボルが町の祭りにもっと触れるシーンがもっとあれば最高のエンディングを迎えられたと思います。まあ、予算的にも撮影期間的にも難しかったとは思うんですが、あれだけ町の人たちに協力して貰えるのなら、ノボルを祭りの中に放り込んでから鳥居や夕陽の存在に気付くって流れの方が綺麗だったんじゃないでしょうか。欲張り過ぎですかね。
まとめ
映画を面白くするためには絶対に “枷(かせ)” が必要で、主人公が乗り越えなければならないハードルをいかに用意するか、葛藤・苦悩させるかが必要となってきます。
その点を考えると、今作は短い上映時間ながら上手く枷を作っており、愛すべきクズ野郎という主人公のキャラ設定も含めて、その辺のビッグバジェットの日本映画よりもちゃんと脚本が練られている印象でした。
そりゃ『Fukushima 50』(若松節朗監督)や『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』(キャシー・ヤン監督)を観に行っちゃう気持ちも分かりますよ。豪華だし派手ですから。
でも、決して恵まれた条件とは言い難い環境でもここまで面白い作品があるってことを皆さんには知っていただきたいし、出来れば日本でもこの作品が評価されて毎熊克哉×武田梨奈コンビでの続編を観たいぐらい好きな一本になりました。
てことで、『 いざなぎ暮れた。』オススメです!
コメント